本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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【あらすじ】
動物が死んだら、魂はどこに行くのか……?
心は───転生は?

動物は、死ぬと楽園に行ける……

主人公・紫堂アキラは、動物の死後の世界─── ‹森› ─── を守護する妖魔である。しかし、自分の立場に納得できていない。
それは、食物連鎖に抵抗感を持つ、人間の感覚でもあった……

最初から読んでみようかな? と思っていただけた方は →こちらから


第二章(1)

「あー、何やってたんだよお、アキラ様あ」
 小柄な猫族のミイは、入ってくるなり唇を尖らせた。
 続いて目の周りに青痣を張りつかせた犬のドギーも「おお!」と喜びに満ちた声を洩らしながら入ってくる。
 カウンターの中でひとりコーヒーを飲んでいたアキラは、面倒くさそうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直してにっこり笑った。
「よっ、ご苦労さん!」
「ご苦労さん、じゃないよお……ひどいんだから。ぷん」
 ミイが頬を膨らませる。
 アキラが姿を消してしまったので、いつもの見回りを二人に頼んだと江森が言っていたのだ。ケーキを食べて、寝込む前に。
 二人がカウンターに座ると、何度も沸かし直して不味いほうのコーヒーを出してやる。
「そんな顔するなって。ほら、これでも飲んで機嫌直せよ」
「コーヒー一杯で騙されないもんねえ。な、ドギー?」
 ドギーは再会の喜びに潤んだ瞳を、怒りの眼差しに変えてミイを睨み付けた。
「わたくしはわたくしのアキラ様がわたくしの目の前ににこやかにお立ちになっているのをわたくしの目で確認できただけで手と足と胸と背中が感動という名の美しい感情で満ち満ちてゆくのでございます! それがわたくしとわたくしのアキラ様の縁あさからぬ絆というものでございましょう……所詮、貴様のような猫ふぜいとは相容れぬ別種の理解の届かない単なる知り合い程度の仲だというのをわたくしはわたくしの目で今更ながらまのあたりに致しましたでございます! つまり───」
「また始まったあ。もう、うざいなあ」
 奇妙な喋り方には慣れっこなのか、げんなりしただけでそっぽを向く。
 ドギーは、その仕草に目を剥いた。
「うざいとは何事でございますか! わたくしの目の前でわたくしに向けてわたくしの悪口を言うなどとは猫程度の低劣で怠惰と惰眠を貪る一族にとって至極当然とはいえわたくしの耳から脳に入る事自体が赦せないとわたくしはわたくしの一族の誇りにかけて宣言するものであるのでございます!」
「宣言でも何でもすりゃいいじゃんかよう!」
 堪り兼ねてミイが怒鳴り返す。
「でもさあ、大まじにうざいんだもん。その喋り方なんとかなんないもんかなあ?」
「貴様こそ欝陶しい話し方をわたくしの鋭く敏感な耳元でわたくしに向けて喋るのを瞬きする間に止めるでございます! 寝そべって安楽な生き方をする猫のような食事時しか鳴かない猫のような話し掛けても尻尾の先を動かすだけの返事しかしない猫のような、まるで猫そのものの話し方をするのを今この瞬間から改めてわたくしの快活でいて清々しい話し方を手本にするのがいいのでございます」
「や・だ・ねえ!」
 不毛な口喧嘩に決着を付けてやろうと、アキラは腕まくりした。二、三発殴ってやれば口をきく元気も無くなる。
 しかし敏感な耳は、裏口から物音がしたのをとらえた。
 渋々とカウンターから離れ、休憩室を兼ねた裏部屋のドアを開ける。
 そこには小さな白い鳥が、隣家にあるサンザシの枝に止まってこちらを見ていた。現存するどの鳥にも似ていない、単調な顔と絵の具のような白い羽根を持っている。黒くて丸い眼球は、何の意思も表してはいなかった。
「……伝言鳥、か」
 そう認めたとたん、伝言鳥は枝を蹴ってアキラの肩に止まった。部品のような爪が服に食い込み、アキラは乱暴に鷲掴みにする。
 力任せに床に叩きつけると、伝言鳥は複雑な割れ方をして組み合わさり、光る球となった。
 部屋中に跳ね返る光は、立体映像を映し出す。
『蝙蝠の若き長、紫堂アキラに予言を託します……』
 涼やかな声と共に現われたのは、美しい女だった。
 首と手首に幾重にもアクセサリーを巻き付けた姿は、不思議と下品ではなく豪華な巻き毛によく似合っている。
 占い師であり霊媒と予言に長けた巫女、鳥の一族の蜜子であった。
 伝言鳥は伝言を届けるものであり、記憶させた映像を再生するだけなのだが、蜜子は軽い笑みを浮かべ、対峙しているようにこちらを見つめてくる。
「相変わらず芝居がかった女だぜ」
 アキラは鼻を鳴らした。
『私の霊感によれば……』
 蜜子は視線を避けるように俯いた。
『本日の三時ごろ、〈森〉の同志になるものが最後の一息を吐き出すと感じていますが───』
 また言葉を切り、睫毛を震わせる。
 その仕草にアキラは首を傾げた。なぜか、言いにくそうにしているのだ。普段の蜜子からは考えられないことだった。
「なんだよ、なにかまずいことでも?」
 答えは返ってこないと解っていながらも、言わずにはいられなかった。
 真っ先に考えたのは、動物が錯乱しているのではないかと言うことだった。
 めったないことだが、動物はその本性を見失って凶暴な面をむき出しにしていることがある。手が付けられないほど暴れ、何も見えず何も聞こえない精神状態になる。そのほとんどは澱んだ負の想念である『邪鬼』に冒されているのだった。
 アキラはまだ、そういった動物に出会ったことはない。身構えるような気持ちで蜜子の様子を窺った。
『……アキラ』
 蜜子は無表情にも取れる微笑を浮かべながら、言った。
『波動の乱れが起きていて、正確な時刻が割り出せないの。場所の所為かもしれないけど、こんなことは初めてだわ』
「何だよ、脅かせやがって」
 アキラは肩の緊張を解いた。
『気をつけて』
 蜜子は語気を強めた。
『想像もつかないことが起こるかもしれないわ。とにかく何かあったら江森さんに指示を仰いで頂戴。あのひとなら的確に対処してくれるはずよ』
「うるせえな、このインチキ占い師が」
『インチキではないわよ』
 からかう声にぎょっとして身をのけぞると、立体映像は『ふふっ』と笑った。
『あなたの言いそうなことよね。……驚いたかしら?』
 完璧に整った微笑は能面のように美しかった。アキラが唾を吐いて伝言鳥を踏み潰そうとしたとき、それすらも読んだのか、
『場所を言うわ』
 瞳に険しい色を浮かべて、早口になる。
『通称“運命の力”と言えば解るでしょう? あなたが義務として見回りする辺りよ。早めにいって捜して頂戴ね。それから……』
 言い終わる前に、頑丈なアキラの革靴が伝言鳥を床板にめり込ませる。画像は明滅して消えた。
『さいせい、おわりました』
 機械声で短く鳴き、複雑に噛んだ身体を解きほぐして元の姿に戻ると、開けっぱなしのドアから飛び立って行った。
「けっ!」
 乱暴にドアを閉め、苛立ちの余波で椅子を蹴飛ばす。
 蜜子という美女は、いつも苛々する存在だった。余裕たっぷりの微笑と完璧な美貌で、会うたびにアキラを子供扱いするのだ。
 実を言えば、蜜子に限らず〈森〉の住人には苛立っていた。単なる世間話であっても、体の内側がざわざわしてくる。その原因は、誰もが表情に乏しいからなのだ。
 蜜子は特に、微笑している仮面を張りつけているとしか見えない。変化のない表情は、無表情と同じ事だった。
 不機嫌なまま店へと戻ると、ミイの甲高い声が響いていた。
「このクソ犬クソ犬クソ犬う! お前は骨でも齧ってなよお!」
「なんですと! 聞き捨てならない言葉がわたくしの耳から脳へと入ってきましたでございます! 品行下劣な猫ふぜいが口の端を歪めて醜く言い立てるのをわたくし犬一族の誠実無比な高潔の魂はきわめて嫌悪するのでございます! しかしながら同じ程度の言葉でなければ通じない輩であるのは明明白白、となれば言わせて頂きますですが貴様のようなうんこ猫は即刻背中を見せて立ち去るのが道理というものでございます。このうんこ猫うんこ猫うんこ猫!」
「ああ!? 一回多く言ったなあ! クソ犬クソ犬クソ犬クソ犬クソ犬!」
「貴様こそ多く口から言葉を飛び出しているのでございます! 然らばわたくしも言わねばならないのが道理というものでございましょう! うんこ猫うんこ猫うんこ猫うんこ猫うんこ猫うんこ猫───」
 胸ぐらを掴み合って唾を飛ばすふたりに、アキラは頭を掴んで、派手にぶつけ合った。
「うるっせえんだよ! いい加減にしやがれ!」
 ふたりは目玉をぐるぐる回しながら、
「でも、このクソ犬が……」
「全ての責任と叱責はこのうんこ猫───」
 と言い掛けたが、仲良く片方ずつ耳を掴まれて引っ張られた。
「う・る・せ・え!」
「ぎゃん!」
 もう一度『ごっつんこ』されて、仲の悪いチームは並んでへたり込んだ。
 アキラはそんなふたりを見下ろして、盛大にため息を吐く。
「なんだかいつもと同じパターンにはまり込んでいる気がするぜ……」
 その目の前で───突然ドアがけたたましく開いた。ドアベルがかき鳴らされて、共鳴に店中が揺れる。
「あ、あ、あ……アキラ様!」


第二章(2)に続く。

「縦書き」で読みたい方はこちらをどうぞ!
「NEXT」 をクリックして本文にお進みください!


縦書き(5)に続く。




「うんこうんこってウルセエゾ!」 と思われた方、本当にすいません……




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