本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第九章 エピローグ(後)



『やあ、アキラちゃん元気いー? 僕はとっても元気だよ。
 あれから村のみんなと仲直りして、一緒に花壇の手入れをしたりして過ごしているよ。
 ねえ、色々話したいことがあるから、近いうちに来てくれないかなあ? みんなもアキラちゃんが怒ってるんじゃないかと不安になってるみたい。手作りのお菓子が食べたいなーって、伝えてくれって頼まれちゃった。オリジナルのケーキを誉めれば機嫌が直るから、だってさ。みんなして、今回は我慢して食べようって言ってるよ。
 あ、そんなことまで言わなくていい? ごめんごめん、でももう言っちゃった。
 とにかく、僕もアキラちゃんに会いたいし、そのケーキ食べてみたいんだよ。なんでも“ほぼ嫌がらせに近い”って味がするんだって?
 んん? どうして僕の身体を羽交い締めにするの、狸さん? 
 あん、ひっぱらないでよ。
 きゃん! どうして蹴飛ばのさ? けっこう乱暴だよね。
 え、何? もういい? ちょっと待ってったら。僕まだお喋りしたいんだけど───』

 水晶の大きな塊からカリーファの平面的な姿が消え、アキラはぎこちなく振り返った。
「……で?」
 そばに立っている蜜子に訊いた。
「どうして、こんなこと言われてまで〈森〉に行かなきゃいけねえんだよ?」
「私に訊かないで頂戴」
 いつもどおり無表情に見える微笑を浮かべ、蜜子は豪華な巻き毛を掻き上げた。ブレスレットが硬質の煌めきを放つ。
「あなたと連絡を取りたいと言われたから、そのようにしたまでよ。内容までは責任持てないわ」
「そうだけどよ……」
 アキラは顔をしかめた。まったく正論ではあるが、気が治まらない。
「だったら〈森〉から接通してきても無視するように。いいか、これは命令だぞ」
「はいはい、威張りん坊さん。仰せに従いますわ」
 美貌の巫女はしんなりと一礼してみせた。こういう態度の時は、必ず正反対のことをしてやろうと企んでいるのだ。この蜜子という女は。
「……ったく、誰も彼も俺をなめやがって!」
 アキラは勢い良く立ち上がった。
「ちっくしょう! 目茶苦茶うまいやつを作って驚かせてやるからな。見てろよ!」
「それならいい方法があるわ」
 蜜子は含み笑いを洩らす。
「近所のケーキ屋で買って持っていくのよ。みんなひっくり返るわね」
「ミイみたいなこと言うなよ」
 拗ねた口ぶりで、アキラが呟いた。
 以前はこんな会話にも苛々していた。しかし、表情は目に出る───動物に教えられてから、蜜子を見る角度が変わった。無表情としか見えなかった顔には、百万言もの言葉を費やしても表現しきれない感情が潜んでいた。
 アキラは腕組みをして考え込む。
「最近インパクトのあるケーキを作りすぎたのかもしれないな。もう少しおとなしめのを考えてみるか。……とりあえず参考のために、今からどこかに行くか? ケーキの旨いレストランとかに」
「……私に言っているの?」
「他に誰がいるんだよ? 別に厭ならいいけどよ。でも女連れの方が注文しやすいんだよな」
 蜜子は見透かす目つきで、アキラの顔を覗き込み、
「意外だわ。怒っているかと思っていたのに」
 ふいに、整った顔を冷たくさせる。
「あのこと、まだ決着はついていないのよ」
「話を蒸し返すなよ。もういいだろ」
 言葉を被せるようにして、アキラは強引に話を終わらせた。
「俺なりに考慮した。二度とその事は口に出すな」
 カリーファが“未来の災厄”であるという蜜子の霊感は変わらない。それどころか徐々に強まってくるようだった。
 アキラはそれに真っ向から逆らい、『絶対に信じない』と突っぱねた。口論の末に、ふたりの間に深刻な決裂を引き起こす寸前にまでなった。
 しかし統皇の結論が、ふたりを救った。『当面はカリーファを客として滞在させる』という通告をしてきたのだ。渋々、蜜子が引き下がる形となり、仲たがいは凍結した。
「統皇様はあなたに甘すぎるわ」
「はん! 何とでも言え」
 アキラは舌を出して蜜子の表情を険しくさせ、それを見ておかしそうに笑う。
 そして、記憶の中の泣きべそに、秘かに語り掛けた。
 泣くなよ、シン。
 精一杯あがけ。戦うんだ!
 加勢するように、こぶしを手のひらに打ち付ける。その痺れる痛みは、アキラの負けん気を掻き立てて不敵な笑みを頬に押し上げた。
 今ここに江森がいたら、滑らかに言うことが出来るだろう。
 俺は『運命』って奴と、喧嘩する気でいるんだぜ、と。
「アキラ? 何を考えているの」
 蜜子が、訝しそうな顔で見詰めていた。
「怒った顔して笑わないで頂戴。気味が悪いわ」
「ほっとけ」
 簡単に応えて、肩をそびやかした。
「どうするんだよ? 行くのか行かないのか、はっきりしないと気が変わっちまうぜ?」
「行くわ。あなたの奢りで、散々高価いのを注文してやるから」
「全部食えよ。……じゃ、話は決まった」
 手を差し出して、腰を屈めた。
「インチキ占い師、お手をどうぞ」
「あら、ありがとう。その生意気な舌を引っこ抜いてくれたらもっと気分がいいのだけど」
 ふたりは険のある目を見交わして、さっと逸らした。今は一時休戦と言う代わりに。
「ああ、そうそう───」
 蜜子はテーブルの端に置いてあった、なにやら細かい文字で書いてあるメモを取った。
「統皇様から伝言よ」
「あん? 何だって」
「〈森〉の樹を二、三本折ったそうね。反省文を書くように、って」
「げっ!」
「それと……」
「まだあるのかよ!」
「ええ。村を騒乱させた件、蔵書室の本を読み散らした件でも一言注意したいから顔を出しなさいと仰ってたわ。あと、あれから犬と猫があなたを捜して屋敷の花壇を壊したんですって。四鬼獣様からも、苦情が……」
 アキラは茫然として、文句を言う元気も出なかった。
「まだまだ沢山あるわよ」
 楽しそうに読み上げながら、蜜子はアキラの背中を押した。
「ケーキを食べながらゆっくり説明するわね。……今日はなんだか、とびきり美味しく頂けそうだわ」
 急に力が抜けて、アキラはへたり込みそうになる。
 どうやら『運命』と戦う前に、この山積みの雑事を片付けるだけで力尽きてしまいそうだった。
 向こう見ずで脳天気な蝙蝠は───『水の月』を追い掛ける旅に、とりあえず心の中でだけ一歩踏み出した。



       <了>






完結しました! 最後までアップできてよかった~!
皆様に感謝します! ありがとうございましたん♪

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