本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第八章(6)


「まさか、妖魔になりたくない、と言い出すんじゃねえだろうな?」
《違います》
 一蹴して、動物の魂たちは居住まいを正した。
《どうしても、あなた様に申し上げたいことがありました》
「俺に?」
《はい》
 狼が毅然とした姿勢で、代表する。
《我々は数えきれないほどの輪廻を経てきました。好きな動物に生まれ変わり、好きな土地で、好きなだけ生を満喫して───それゆえに傷つき、命を終えて〈森〉に帰る。その繰り返しの終着点で、あなた様に出会いました。妖魔になる門を開ける、緑掛かった目をした蝙蝠は、とても哀しげだったのです》
「……」
《摂理に身を委ねることを、憂いてくれているのが解りました。かつては他者を屠る身が、肉の脱け殻になった途端に他者から屠られる身に変わる。その残酷さに心を痛めていました。……しかし、それこそが動物にとっての喜びであるのを、お教えしなければと思ったのです》
 言葉を選ぶようにして、目を閉じる。
《植物の葉を食む。弱い動物の肉を喰う。そしてより強い動物に屠られる……それは命を受け継ぐということです。人間ふうに言えばバトンリレーを延々と続けているようなもの、ですね。だからこそ懸命に狩りをして、狩られるほうは懸命に逃げる。そして命が終わったときには、今度は全てのものに命を分け与えるのです。生き物として、これほど喜ばしいことがあるでしょうか? 動物の短い生涯の目的は、回転を早くして他者と命を分け合うことです。喜びを分かち合うことです。存分に生きて、仔を成し、死んでゆくことです。その動物を統べる蝙蝠が、哀しそうな顔をしては、いけません》
 尻尾を振って、叱っているのではないと伝えていた。
《あなた様は妖魔であると同時に、人間の感覚もお持ちだ。だから余計に、このことを知らなくてはなりません。動物は死を迎えるのを恐れてはいないと。血肉が余さず還元されるのを喜んでいるのだ、と》
「そう、か───それを言いたくて、わざわざ妖魔に生まれるのを踏みとどまっていたんだな」
 アキラの胸に微妙な痛みが走った。それを隠して、明るい笑みを浮かべる。
「俺、余分なことしちまったんだな。お前たちが直談判したくなるほど思い詰めていたなんて、全然知らなかった。俺の感傷なんて邪魔だよな」
《あ、いえ、そういう意味では》
 狼は言葉に詰まって、仲間を見上げる。
《えーっと、その》
「ん? なんだ?」
《ですから、どう言えばいいのか》
 困った視線は、動物たちの間を一巡りしても行き場がなかった。精霊に目を向けるものもいたが、肩を竦められて宙を彷徨う。
 その時、不意に明るい声が響いた。
《はいはい! わたくしめの出番ですな!》
 新たな魂が螺旋を描いて降ってきた。
《遅れて参上つかまつります!》
 元気よく飛び回り、狼の隣に落ち着いた魂は、お調子者らしくお辞儀するように上下した。
「お前は、猪……かな? 今日死んだばかりの」
《そうでございますよ!》
 死んでいるとは思えないほど、張り切った精気を漂わせている。
《わたくしが皆様の気持ちを代弁できます。なにしろ何時間か前の出来事ですからな》
「へえ?」
《あなた様はしんみりしたふうに肩を落として、わたくしを見詰めていました。腕に抱いて、撫でてくださった。そう、確かに哀しんでいただくのは本意ではありません。しかし、わたくしは嬉しかった!》
 猪の言葉に、動物たちはほっとした雰囲気を持った。
《あなた様は心の中で泣いていました。目の前で死にゆくものを見て、悼んでくださいました。それが嬉しかった。摂理を喜ばしく思うのとは別に、ただ単純に嬉しかった》
《そうです》
 猿が首肯きながら言った。
《妖魔だったら持たないであろう感情が、これほどまでに私達を嬉しくさせるとは思ってもみませんでした。あなたの若さ、無分別で未完成な個性が、たまらなく愛しく……どうしてもこの気持ちを伝えたくて、留まったのです。嬉しかった、ただそれだけを》
《転生する前に、動物でいる間に伝えたかった》
《哀しみは必要ありませんが、あなたはあなたのままでいいのです》
 幾つもの真摯な瞳に見詰められ、アキラは頭を抱えた。
「そんなことを言うために、こんな遠回りをしたのかよ?」
 鵺となり、蛭子を巻き込むほど動物たちは真剣だった。それもアキラにひと言伝えたいばっかりに。
《お怒りでしょうか?》
 不安そうに狼が訊いた。
 カリーファは腕組みをして精一杯アキラを睨みつけ、不穏な言葉を吐いたら叱り付けようとしている。精霊は穏やかに成り行きを見守り、辺りを包んでいる光は静かに煌めいていた。
「降参だ……」
 アキラは呻いた。
「すごく嬉しい。本当だ」
 涙で潤みそうな目をしばたくと、咳払いして言葉を押し出した。
 動物たちは、今度は安堵した目を見交わして、笑った。
 表情のないはずの動物は、目に感情が表れる。それはそのまま妖魔にも当てはまった。喜怒も哀楽も、持っているのだ。顔全体で表現しないだけだった。
《お願いがあります》
 ワニが低頭して、黄色い目で見上げる。
《望みを果たした今、我々は〈森〉が恋しくなりました。できたらあなた様の手で、もう一度送っていただけないでしょうか?》
 アキラが首肯くと、さっそく茫とした魂に戻った。
 象も、狼も、猿や蛇も───競って光る点に姿を変え、身を寄せ合って待っていた。
 アキラの声を……!
「祝福あれ!」
 凛とした声を上げて、魂たちを強力に押し上げる。
「門を開け、迎え入れよ! この者達には資格がある!」
 混じり気なしの歓喜に身を震わせた魂たちは、上空に開いている見えない扉へと吸い込まれていった。
 動物の守護者、妖魔として生まれ変わるために。
「行っちゃったねえ……」
 ため息混じりにカリーファが呟く。
「今度はちゃんと、妖魔に生まれて来られるよね?」
「当たり前だ。そうじゃないと困る」
 アキラの目には、銀鈴姫の泉に深く沈む、幾つもの『妖魔となる核』が、先を争って大きくなっていく様子が見えるようだった。一度にたくさんの妖魔が生まれ、喜びに沸き返る〈森〉の村人たちの姿も……。
《蝙蝠》
 精霊の呼び掛けに振り向くと、いつのまにかアキラの目の前で精霊が膝を折る姿勢を取っていた。


第八章(7)に続く。



うおおおお……なんだか先が見えてきた!

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