本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第八章(5)


 霧が晴れてゆくと、ばらばらになった鵺の残骸を前にして、カリーファが力なくうずくまっていた。
 鵺の頭部はガラスのようになった瞳を上に向け、最後に見たときと同じに転がっている。張りついていた蛇のたてがみが、干からびて全て抜け落ちていた。
 動きを止めていた伝言鳥が、きょとんとして床に降り立つ。命を持たない鳥は、自分を運んでいた者が「物体」になってしまったのを不思議に思っているようだった。
 その黒い目がついと宙を見上げた。穏やかに光を放つ存在が、形を取りつつあったのだ。
「あ……」
 カリーファが喉を震わせた。
「あ───あ、あ……」
 アキラはカリーファの頭を手加減なしにぶん殴り、意味のない言葉しか言えない口を閉じさせた。
 緩慢に姿を整えた“それ”は、人間に酷似していながらも明らかに人間ではなかった。妖魔ですらない。輪郭を聖なる光に照らされた存在───森羅万象に通ずると言われる精霊がそこにいた。
 武人のようないでたちに柔和な微笑みを浮かべ、口を開けて見入っているふたりに深々と一礼する。
《無事まみえる喜びは、百万の言葉にも尽くしがたい。我は今、ここに本来の姿を取り戻した》
「本来の姿───って、どういうことなんだ? 説明してくれ」
 うろたえるアキラをよそに、精霊は嬉しそうな笑みを見せると、すんなりと伸びた腕を大きく広げた。
 鵺の体だったものはふわりと浮いて、従順に腕の中へと掻き集められていく。精霊がいとおしそうに抱えると、鵺の断片はきらきらした輝きを放ってこぼれ落ちた。
《因あれば、果あり。我は因を入れる『箱』としての役割をはたした》
 床に散らばる結晶を指し示し、片手で空気を撫でる仕草をした。
《蝙蝠よ……。この者達が、お前に話があるそうだ。さあ、姿を現せ!》
 精霊の声に、結晶は一斉に身じろぎをした。それぞれが、すじ状の光を放って膨れ上がる。
 ひとつは小さく、ひとつは大きく。中くらいや桁外れ、縦長と、無分別の有様を見せた者達は、形を固まらせてアキラの前に姿を現した。
 それは肉体ではなく、魂だった。
 しかも見覚えがある。
「お前たち、ここで何やってるんだ?」
 アキラは唖然とした。
「俺が最期を看取ってやった奴ばっかりじゃねえか!」
 狼の魂が首肯いた。
 ワニもいた。象と猿、蛇。みな寄り添って縮こまっている。
「まさか、お前たちが鵺だったのか?」
 アキラは端的な特徴として現われていた動物たちを見回した。じわじわと頭に血が昇ってくる。
「俺があれだけ、『迷子になるなよ』って言ったのに!」
 動物たちは更に小さくなってうな垂れた。決まり悪そうに耳を動かしたり、尾を蠢かしたりしている。
「アキラちゃん、怒っちゃだめ」
 カリーファが腕にしがみ付いてきた。
「みんな悪気はないんだよ。だから……」
「怒ってねえよ!」
 アキラはカリーファに怒鳴りつけて───唇を尖らせて呟く。
「魂は門をくぐったはずなのに、全然生まれて来ねえし、何かあったのか、もしかして俺の責任かも、とか色々考えてて───」
《ご心配をおかけして、本当に済みません》
 ワニが、のそりと首をもたげた。
《あなた様に看取ってもらった後、我々は寄り集まって異空間を彷徨っていました。そんな時、あの方と出会ったのです》
 と、精霊を振り返る。
《澱みから生まれようとしている姿は力強かった。だから、協力をお願いしたのです。融合して、その身に宿らせてもらった。しかし少々計算違いがありました》
《融合したことによって、別の新たな性格を持ってしまいました。動物の感情を流れている孤独感……不信と猛々しさを前面に出したもの。それが、あなた様の知っている鵺です。我々の奥深くに眠っている、もうひとつの顔でした》
《そして、〈神話〉と〈童話〉の世界から駆逐されそうになり、錯乱してしまった》
 魂たちは代わるがわる重い口を開けた。
「蛭子は?」
 アキラがせっかちに挟む。
「あの兎は、どう関わってくるんだよ」
《ああ───》
 全員が目を見交わして、頷き合う。
《我々を追って、澱みにまで来てくれたのです。統皇様に看取られたときに、『迷子になっているものを見かけたら連れてくるように』と言われたとかで、律儀にも捜し回ったらしいですね。そして鵺となった私達を見つけ、正気に戻そうとしてくれましたが、駄目でした》
《あまりにも深い混迷に支配されてしまったので、彼が融合することも出来ません。そこで、自分が妖魔としての肉体を持ったら、『鍵』としての役を引き受けるからと言い残して、去っていきました》
《彼は、我々よりも大きい力を持っていたのです。先を見越していました》
《そして、漸く……あなた様もご存じの経緯で、我々は元の姿に戻ることが出来ました》
《やっと望みを果たすことが出来ます》
「望み?」
 胸騒ぎがして、眉をしかめた。


第八章(6)に続く。


もうすぐだ……終りが、見えてきそう……

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