本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第八章(4)



 暫し茫然としていたアキラは、カリーファが激しく咳き込む音で我に返った。
「大丈夫か?」
 と言ってから、はっと辺りを見回す。
 逞しい力が満ちている中は、“おしら様”とは別の場所だった。乾いた空気そのものが光を発し、なにやら異空間のようになじみのない心許なさに襲われる。肉の身体を透過する光には、飄々たる力があった。
「アキラちゃん……」
 カリーファが涙目で息を荒くしている。
「僕、すっごく苦しいんだけど───どうしてかな」
「さあな」
 アキラは立ち眩みを起こしながらも身体を伸ばした。水を含んだ全身から雫が垂れ、革の短靴が湿った音を立てる。
 ひたひたと歩み寄る気配に振り向くと、子牛ほどの大きさもある生き物がいた。頭の上にはしつこく白い鳥を乗せている。
「キマ鵺」
 カリーファが駆け寄ろうとするのを、アキラは手で制した。
 何かが起こる。
 鵺の空虚な目を見て、そう感じた。
 何かが起こる。
 何かが。
《こ、うもり───》
 壊れた機械のように呟くと、獅子の頭は、唐突に身体からもげて転がった。
「キマ!」
 カリーファの叫びが空間に響き渡る。
 風化した建物のように、鵺の前脚が自重を支えきれずに崩れ折れる。胴体がつんのめるように倒れ、後ろ足にもひびが入って砕け落ちた。ごつ、と重い音がして、猿の毛皮をした胴はふたつに割れる。
 そしてそこから、凄まじい勢いで何かの気配が噴き出してきた。不定形の雲のようなものは、アキラが見たこともない生き物だった。
 瞬く間に大きく広がり、怒号を上げてのたうち回る。アキラの隣でカリーファが悲鳴を上げた。
 その声に引き寄せられるように、生き物は弾性に富んだ腕を振り回してきた。
「危ない!」
 アキラはカリーファの体を突き飛ばし、ついでに思い切り蹴飛ばしておく。
「きゃん!」
「もっと離れていろ! あの生き物は……錯乱している!」
 隆起しただけの頭に目鼻はなく、絶えずうごめきながら絶叫とも取れる声を張り上げている。アキラとカリーファが息を殺していると、目標を捕捉できずにもがき苦しみ出した。異空間の場所に全身を打ち付け、体の内側から別のものが暴れているのを押さえ込むように床を転がった。背中を大きく反って吠え声を上げ、形を変えて自らを攻撃する。
「どうすりゃいいってんだ……」
 アキラは呟いた。
「俺に何ができる……?」
 言葉が通じる状態ではないのは瞭然だった。もがいて暴れ回り、生き物自体も何がやりたいのか分かっていないようにも見えた。
 ただ、苦しんでいる。
 それに対して、アキラはどう手を出してやればいいのか見当もつかない。
「どうすれば───」
 アキラは胸が痛くなり、祈りを捧げる時のように跪いた。すると、自分の意志とは関係なく、体が勝手に蝙蝠の皮膜を現出させた。
「───な、なに……?」
 戸惑うアキラの心を置き去りにして、黒い皮膜は力強く羽ばたいた。硬い空気を掻いて、暴れる生き物を見下ろせる位置まで一息に上昇する。
 そのとき、半透明の人物がアキラの中から出てきた。それは若い頃の統皇だった。邪気の層で一体になったまま、今まで共にいたのだった。
 再び別の存在になった若き統皇は、緑がかった瞳をきらめかせて真っ直ぐに生き物へと舞い降りてゆく。続いてかつて後継者だった者たちは、アキラの体に重なったときとは逆の順序で分離していった。それぞれが使命を遂行する喜びに満ちた表情で、もがき苦しんでいる生き物を囲んでゆく。
 最後のひとりが体から出て行った。後継者たちは待っている様子でアキラを見上げている。
「なんだよ、俺もそっちに行くのかよ……?」
 返事を待ったわけではないが、ひとりひとりの顔を順に見ていくと、若い頃の統皇だけがしっかりと頷いた。
 アキラは空中で皮膜を空打ちして見せ、きりもみする勢いで急降下した。床に激突する寸前で激しくはばたき、ふわりと浮かびあがる。実体のない者たちは、そんなアキラに親愛の目を向けて、隙間の開いている辺りを指し示した。
 生き物の叫びは、耳を聾するほどの圧迫感で響き渡っていた。その声は悲痛でもあった。アキラは示された位置に浮かんで、不気味にうごめく体に触れてみえる。雲よりも弾力があり、ほんの少し温かみがあった。
「落ち着け……」
 アキラは囁いた。
「俺はお前を楽にしてやりたいだけなんだ……」
 後継者たちはアキラを手助けするように、微かな祈りの声を上げた。幾つもの時代がかった言葉が合わさり、異空間の場所いっぱいに清らかなものがあふれていく。
 そこには妖魔であるとか後継者であるとか、育った年代や場所などは関係なかった。ただ、祈る心で繋がった者たちの声が満ち、生き物を包み込んだ。
 生き物は驚きに体をこわばらせる。
 祈りの唱和が染み透ってくるにつれ、まるで共鳴を起こしているように細かく震え始めた。
「頼む……」
 アキラの呟きに、生き物は恐怖に満ちた絶叫を上げた。次の瞬間、巨大な体が音もなく崩れ落ちた。
 雲のような微実体は、粒子が分解していくように空気に溶け込んでゆく。霧となって異空間の場所を白く染め、その中をかつての後継者たちがアキラに微笑みかけていた。成功を祝う表情を浮かべ、満足そうに次々と消えてゆく。
 後には現在の後継者───アキラだけが残された。
 どこか名残惜しそうな目をして、姿が溶けていった辺りを見つめると、
「……感謝する」
 アキラはぽつりと言った。


第八章(5)に続く。




うわあああああああー(ごろごろ) ひえええええええ(ごろごろ)


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