本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第八章(2)


 はばたきごとに大樹の姿が鮮明になってくる。よく見れば〈森〉の樹よりも野趣あふれる風情があり、黒い幹からは太い枝が幾本も飛び出て豊かに葉を茂らせていた。雲のように隙間なく広がり、ブロッコリーの連なりに覆いかぶさっている。
 皮膜を現出させたまま、無事に降り立つのは不可能だった。アキラは速度を落とさずに飛行して、激突する手前で、
「……戻れ!」
 と命令した。
 長大な蝙蝠の皮膜は、微かな抵抗を見せてから背中の内側に潜り込む。放り出された身体は斜めに落ち、こんもりとした枝葉に突っ込んだ。
 騒々しく枝を折る音と身体をかすめてゆく葉に巻かれて、アキラは地盤を掘る削岩機の気分を味わった。足で削ってゆくひと枝ひと枝が、アキラが先に進むのを拒んでくれる。尖った枝先が服を裂くのに任せ、腕で顔だけを庇った。
 目も耳も騒々しい葉ずれの中にある。感覚だけが頼りだった。
 ごつ、と太い枝が足に当たり、「今だ」と思う瞬間があった。
「風よ!」
 身体の奥に潜む黄金色に、呼び掛けるようにして声を上げた。
 のたうつ力が解放感に震えるのが感じられる。それは凝縮してから、一気に拡散した。
 アキラから束となって放出された精気は、上昇気流となって持ち主の身体を押し上げる。落下を相殺する作用を持っていた。
 落葉が舞うなかをふんわりと着地して、アキラはようやく顔を覆っていた腕を下ろした。
 額に浮いた汗を拭い、息を吐く。
「もしかして、結構いい感じで制御できた、かな?」
 暴れ馬だとばかり思っていた力は、ほんの少しだけ従う意志を表わした。それに気を良くして、アキラは目の前にそびえる大樹を見上げる。
「大丈夫、俺はやれる……」
 自分に言って、大きく口を開けるうろに入っていった。
 内部は暗かった。目が附いていけずに残像が踊り、めまいのような感覚に襲われる。じっと辛抱強く回復を待っていると、ようやく蛍の乱舞のような光が明滅しているのが見えてきた。
 石組みに囲われた泉が微かな光を放って息づき、波打った表面から燐に似たものがあふれて飛び立つ。生命力が物質化したもののようだった。
 半地下状にえぐれた床に飛び降りると、アキラは初めて見る光景に見惚れながら泉に歩み寄った。
 すると、
「むぎゅう……」
 足元から精根尽きた声が聞こえる。
「アキラちゃん、なの?」
 カリーファが白い髪を乱して倒れていた。
「お前、無事なのか?」
「うん。あちこち痛いけど平気だよ」
 意外と頑丈なところを見せて起き上がった。目が回っているのか頭をぐらぐらさせ、手探りでアキラの足に縋り付いてくる。
「ねえ、あいつが変になっちゃった……」
 不安に怯えるカリーファは涙声になっていた。
「どうしよう、僕どうしたらいい? アキラちゃん、知ってたら教えてよ」
「なら、教えてやる」
 アキラは乱暴に白い衿を掴んで立ち上がらせた。べそをかく頬を軽くひっぱたいて、
「泣くな」
 と優しく言う。
「鵺をつれてきたのはお前だろ? だったら、見届けろ。解ったか?」
「よく解らない」
「つまり───とりあえず、追い掛けるから一緒に来い」
「うーん……でも見失っちゃったし───」
 歯切れの悪い返事に、アキラのこめかみには血管が一本浮き上がった。
 次の瞬間、アキラは渾身の力を籠めて頭突きをかませていた。
「ぶみい!」
 カリーファがぐったりとして、呆気なく気絶する。
「これでよし、と」
 アキラは気楽に呟いて、カリーファを肩に担ぎあげた。他人のペースに合わせられない性格のアキラだった。
「さて……」
 軽く手をあげて気配を探った。
「白髪小僧を振り落として、泉に飛び込んだ……ん、間違いないな」
 空気に転写した存在記録は、鵺のものとは思えないほど希薄ではあったが、細くたなびいて残っている。
 入り口から、ほぼ真っすぐ“おしら様”の泉に続いていた。
「銀玲姫」
 少々やかましい喋り方を思い出して、挨拶代わりにと手のひらに水を受ける。
「不遜な行為だと怒られるかもしれないが、悪いな。こっちも火急の用だ」
 ひと掬いを、洗礼のように頭から掛け、
「───土足で入らせてもらうぜ!」
 カリーファを抱え直すと、飛沫を盛大に跳ね散らして飛び込んだ。


第八章(3)に続く。



あうー、ここここれは……

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