本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

2017/051234567891011121314151617181920212223242526272829302017/07

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第八章(1)



 アキラが飛び込んだときは、鵺が蛭子を呑み込んだ直後だった。
 長老の月影が悲痛な叫びを洩らし、何事かと振り向いた村の者達が凝然としている。
「キマ! どうして……、ねえ吐き出してよ!」
 怯えたカリーファが、鵺を揺さ振っていた。
「みんな落ち着け!」
 アキラは息急き切って立ちはだかる。
「俺に任せろ! これには訳があって……」
「アキラちゃん! キマが、キマ鵺が!」
「知ってる」
 簡単に言ってから、殺気立つ村の者を睥睨した。茫然とした後にやってくる怒りが、祈りを基本とする妖魔たちの形相を変えている。
「冷静になれ! 俺がなんとかするから、こらえるんだ」
「こらえろ、と?」
 兎族の男は、込み上げる怒りに顔を引きつらせて、輪の前へと進み出た。
「あなた様は仲間が喰われてもこらえろと仰るのですか?」
「そうじゃねえよ! 俺がなんとかするって言ってるだろ」
「どうやって、ですか」
「それは───」
 これから考える、とは言えなかった。
 その時、言葉に詰まったアキラを押し退けるように、鵺は咆哮をあげた。猛々しい、勝利の雄叫びだった。
「捕まえろ!」
 牛族の血気盛んな青年が、号令を掛けた。
『命あるものを傷つけてはならない』という掟は、妖魔のなかに刷り込まれている。しかし仲間を想う気持ちと、集団心理の前ではひとたまりもなく消し飛んだ。
 輪が崩れて、男たちが雪崩を打つ。
「仇を討て」
「腹を割いて取り出せ!」
 村人たちの口から怒号が飛び出した。
「ばか、やめるんだ!」
 アキラは唇に指を付けて術を発動させ、不可視の障壁を張った。先頭の何人かが弾き返されて目を回す。
 熊の頭領が力任せに殴ると、一端が霧散して消えた。精気で練り上げた壁は、脆かった。
「ええい、くそ!」
 振り返りもせずに鵺のたてがみを掴み、
「ここは一旦、退くぞ!」
 障壁が叩き壊されるのを背にして、追われるもの達は走り出した。何も考えずに細い通路を抜け、角を曲がるたびに、
「ぐえ!」
 と変な声がする。
 カリーファは鵺の首元にしがみついていたために、引きずられる形で附いてきていたのだ。どうやら振り回されて建物にぶつかっているらしいのだが、構っていられないので放っておく。
「鵺! あっちだ」
 集落を出て、〈森〉の樹々が茂っている方に向かうと、鵺は急に立ち止まって身体を強張らせた。
「何やってんだよ!」
 アキラの声が聞こえないのか、自分の中に耳を澄ますように俯く。
 そして背中の筋肉に力を注ぎ込むと、持てるかぎりの速度で駆け出した。アキラの足では間に合わないほどに疾駆し、落葉を蹴散らして見えなくなる。
「うぎゃ!」
 今度は樹に叩きつけられたカリーファの声が、やや遠くに聞こえた。
「あの、ばか───」
 見事なまでに置き去りにされ、唇を曲げて吐き出す。後を追おうとしたとき、「いたか?」「向こうだ!」という割れ声を耳にして、アキラは舌打ちした。
 目を閉じて、開ける。
 それだけで、蝙蝠の皮膜がシャツとジャンバーを突き破って現出した。軽く地面を蹴って、自分の一部である皮膜に力を籠める。
 アキラは軽々と、樹の天蓋の上にはばたいていった。
 狭くなっていた視界が開け、地平線に沈みかける陽が残照を投げかけているのが見えた。透明感のある深い空が紅の化粧で蝙蝠の妖魔を迎える。
 眼下に見えるブロッコリーのような〈森〉も、赤い色を刷いて綿々と連なっていた。
「───どこだ?」
 気配を感知するアンテナを広げるまでもなく、
「ぶほ」
「みぎゃ……」
 変な声は鵺の駈けていった方向へと真っすぐ続いている。
 どこに向かっているのか、延長線に目をやってアキラは眉をしかめた。一際高く盛り上がり、周囲とは一線を画している樹がある。
「あれは……“おしら様”?」
 銀玲姫が化身しているという大樹は、邪鬼の層や地表を突き抜けて、堂々たる姿を現していた。
「引き寄せられているのか?」
『鍵』が差された『箱』ゆえの行動か、それとも単に誰も来ないところを目指すつもりなのか……解らないが、はっきりしていることがひとつだけある。
「俺は追うっきゃねえ、ってことだな!」
 皮肉げに洩らして、アキラは全速力の飛び方に変えた。


第八章(2)に続く。



今までのを全部、「 縦書き文庫 」 にアップして、それを記事に貼り付けて編集し直してます。まあ自己満足なんですけどねえ……(汗)

スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://kujyakudou.blog95.fc2.com/tb.php/65-0987b7c9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。