本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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【あらすじ】
 紫堂アキラは小さな喫茶店を営む若い男である。
 邪魔ばかりする二人の子分、それとお目付け役の江森と共に毎日を過ごしている。しかし、アキラは自分の本当の姿に納得できていない。
 自分が、人間でないことに……

最初から読んでみようかな? という気になってくださった方は →こちらから


(3)

 世界は一つではなく、幾つもの次元の異なる世界が秘かに息づいている。
 物質に支配された人間界の他に、単純に数えれば六つ。それぞれが独立した形で分かれていた。
 かつて存在していた、神々の住まう場所の、〈神話〉。それと人々に愛されている物語の人物が命を得た世界の〈童話〉。このふたつは準異世界と呼ばれている。そして、まだ誰も確認できていないが『ある』と伝えられている、〈虚無〉と〈聖域〉という世界……。
 異世界としては残りふたつが、重要な“命の場”だった。
〈混沌〉……霊界といわれる、人間の死後の世界。
 紫堂アキラの属する〈森〉は、動物の死後の世界である。
 動物は死ぬと、魂となって〈森〉に還ってゆく。欝蒼とした樹々に覆われた、爽やかな風の吹く「動物にとっての楽園」であり、人間界に生まれ変わる為の場所でもあった。
 生命サイクルの短い動物たちは、あわただしい生を終えて〈森〉に還り、また人間界へと何度でも旅立ってゆく。
 壮大なる円運動───輪廻転生───の果てに、動物は本能のみではなく、自分の感情、つまり『心』を持つようになる。その動物は死んだ後、動物の枠から一歩踏み出した生き物に生まれ変わる。
 それが『妖魔』である。アキラも、その一員であるという。
 人間に酷似した姿をしているが、飛躍的に発達した身体能力と、純粋な自己完結細胞を授かった完全体を持つ。怪我をしても異常な細胞の増殖により瞬く間に治癒し、エネルギー循環が生き物と違うため、食事の必要のない身体になる。
 三百年ほどの長命を誇るが、『死』を迎えると二度と生まれ変わることはない。輪廻から解放されるのだ。
 何よりも特異なのは、動物の持つ遠感や目眩ましなどの能力を、はるかに凌駕した力を操る点である。簡単に『術』と呼ぶが、争いを回避する目的でのみ使う事を許されている。
 妖魔の存在する意味は、落ち着いた精神を保ち、現世の動物が迷わないよう祈りを捧げることにある。動物を、そして動物の楽園である〈森〉を守ることと定められていた。
 その妖魔たちを統べる者───統皇と呼ばれる統率者は、蝙蝠の属性を持っている。言い換えれば蝙蝠の一族にしか統率者は生まれないのだ。
 現在の統率者はアキラの叔父にあたる。そしてアキラは、その後継者だった。黄金色の瞳を持つ者は、生れ乍らにして〈森〉に選ばれている。本人の意思とは関係なく、動物の転生を円滑にする機能の一部だった。
 動物は〈森〉を巡って休息を済ませ、統率者の手によって新たな生へと送り出される。人間界と〈森〉を繋ぐ『生命の扉』は、黄金色の力を持つ者にしか開けることは出来ない秘儀であり、一般妖魔とは桁外れの、莫大な力を必要としている。後継者たるアキラは、自分の身体にも内在する神聖な力を嫌っていた。妖魔であるという事実さえ、半分ほどしか受け入れていない。
 アキラはかつて人間として育てられた過去があったからだった。
 妖魔である自分に、そして黄金色の力に反発し、荒れた時期もあった。統率者は、そんなアキラの葛藤を理解し、暫くは好きにさせるようにと寛大な処置をとった。〈森〉を離れて人間界で暮らすことを許したのだ。自由にする代わりに仕事をする事を申し付けて……。
 こまごまとした義務の中で、一番重要なのは心を持った動物───妖魔に生まれ変わるもの───の死の際に出向き、特別な門を開けるという仕事だった。これは黄金色を持つ者にしかできない、迎えの儀である。
 死にゆく日時を予言する巫女の言葉に従って駆け付け、痙攣の始まった動物を看取る。アキラにとってやりきれない仕事だった。
 アキラは常々考える。
 死とは何か、ということを───

 鉄塔の頂上で風に吹かれていたアキラは、ため息を吐いた。
「……自己嫌悪」
 言葉に出してみると、幾分気が楽になってくる。
「八つ当りするなんて、俺って厭な奴だな。短気で癇癪持ちで……」
 指を折って数え始めるが、
「背が高いのも嫌味だし、見た目も格好良すぎるのがいけないな。菓子だってオリジナルは評判悪いが、定番物なら最高に旨いし……」
 と勢いが盛り返してくる。アキラの根は脳天気にできていた。
 この鉄塔に来ると、どんなに頭に血が昇っていても冷静になれる。かつてアキラが人間として暮らした街を一望し、優しさを思い出してしっかりしなくてはと決意する場所でもあった。
 一度きつく目を閉じてから、深呼吸する。目を開けると、もううっすらと笑む余裕が出てきていた。
「……随分と、冷えちまった」
 陽はだいぶ高くなったが、風が冷たい。
 今更ながら身震いして、皮膜を現出させたせいで大きく裂けたシャツの背を見やる。
「……また一枚だめにしたか」
 苦笑いして立ち上がった。集中して現出させれば布地と融合させられるのだが、危険なときや急いでいたりするとその制御を忘れたりする。しかしそういう時でもなければ飛んだりしないので、結局毎回シャツを捨てる羽目になる。
 もう破けてしまっているので、気にせずに勢い良く皮膜を広げると、アキラは来たときと同様に悠然と飛び立っていった。



 喫茶店に戻ると、カウンターの内側で江森がグラスを磨いている。
「おかえりなさい」
 何事も無かった顔で言ってくるのが小憎らしく、アキラは不機嫌に頷いただけでそっぽを向いた。隅のほうに脱ぎ捨てたエプロンがきちんと畳んで置いてあり、灰皿にしていた空缶も洗ってあるのが目に入る。親切なのか嫌味なのか判じかねた。
 江森の場合、大概はどちらでもなく『当たり前のこと』なのだが、いつもわざと嫌味に見えるように振る舞っているとしか思えない。
 カウンターに座り、
「コーヒーくれ」
 ぼそりと言うと、江森は嬉しそうに頷く。アキラがこう言うときは、機嫌が直った合図だと知っているのだ。
 香ばしいかおりが豊かに広がり、表面に湯気の縞が漂っているカップを出されると、アキラは参ったと言いたげな顔で江森を見上げた。
 手を乱暴に突き出して、
「みやげ」
 無理に江森の手に押し込む。
「貰いもんだ。遠慮は要らない」
「ありがとうございます」
 厳しい顔は、中身を覘くとほころんだ。
「花の種ですか。どなたから?」
「商店街を通ってきたら、どこかの子供が俺にくれた」
「それはまた……けっこうなことで」
 江森は手の平に転がして、珍しそうな顔で眺めた。
 癇癪を起こしたあと、アキラは何の変哲もないものをみやげと称して持ち帰ることがある。色ガラスのような石や、古い貝殻のときもあった。手ぶらでは帰りづらいというだけの話なのだが、江森はいつもそれを楽しみにしているふしがあった。
「ありがとうございます」
 再び礼を言うと、大事そうにエプロンのポケットにしまう。
 アキラはふっと笑顔を浮かべた。
「そういえば、今朝作ったケーキは試食したのか?」
 楽しそうだった江森の動きが、金縛りになったように止まる。
「必ず食えって言ってあったろ?」
 追い打ちをかけると、
「あの……アキラ様」
 早くも青褪めて、声まで震わせている。
「私は、どうも味音痴らしいので……できたら他の者に」
「いや、だめだ」
 絶望的な様子にやっと気が治まって、アキラは快活に立ち上がった。江森が甘いものを受け付けない体質だと知ってから、菓子を作るのが妙に楽しくなった───
 エプロンをつけて、カウンターに入りながら、
「俺はお前に味見してもらいてえんだ。ほら、今日のは一段とうまいぞ。ココナッツミルクとチョコレートをパイ生地に練り込んである。中身はフレッシュストロベリーの甘露煮。これにシュガーパウダーをかけてやると風味も増すんだ。あ、あとカスタードクリームと生クリームを乗せたティラミス風チョコレートケーキもあるぞ。サービスしてチェリーの砂糖漬けも乗っけてやるからな」
 固まったままの江森をよそに、浮きうきとケーキを切り分けた。これ以上ないほどの、不穏な目で笑い掛ける。
「絶対に食えよ。残したら承知しないぞ」



第二章(1)に続く。




「縦書き」で読みたい方はこちらからどうぞ!
月夜ノ蝙蝠丸 名義です。
「NEXT」 をクリックして本文にお進みください!



縦書き(4)に続く


読みづらいかな……? 隙間を空けるかどうか考え中です。




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コメント
この記事へのコメント
泥臭くて良い作品だと思います。
はじめまして。
孔雀堂様。
場末でファンタジーを書いているLandMと申します。まあ、あまり大したことのない小説ですが。。。

作品冒頭だけですけど、読ませていただきました。初見で面白いな~~と思いました。何が一番好きかといわれると、やはり『泥臭さ』にあると思います。人間の根源的なものというか、感情というか、そういったものが非常によく表現されていて面白かったですね。

それでいてファンタジーらしく仕上げているので、また機会があったときに読ませていただいて、コメント残させていただきますね。それでは失礼します。

2010/01/20(水) 19:59 | URL | LandM #19fPlKYU[ 編集]
LandMさま。
こんにちは~、ご訪問&コメントありがとうございます!
LandMさまのサイトが場末だなんてとんでもない~(^^)! 本格的な空気に憧れて、時々遊びに行かせていただいています。
私の黒歴史の一つである小説をほめていただいて、非常に嬉しいです。
『泥臭い』……はい、「言われてみれば、納得!」と頷いた私です。
カッコイイ主人公を書こうとすればするほど、カッコ悪さを強調してバランスを取ろうとしてしまう癖がありまして……
ドタバタしてて詰め込み過ぎの小説ですが、ファンタジーらしく仕上がっていると言っていただいてホッとしました。
まだまだ精進いたします。
LandMさまのサイトにも、じっくりと遊びに行かせていただきますね~
2010/01/21(木) 13:29 | URL | 孔雀堂 #-[ 編集]
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