本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

2017/07123456789101112131415161718192021222324252627282930312017/09

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第七章(6)



「さあ、そろそろ本題に取り掛からねばな」
 ガムシャナは急き立てるように手を打った。
「よく見なさい、蛭子は───なのだ」
 蛭子の名が出てようやく我に返ったアキラは、重くなった頭を振った。うまく切り替えられない。
「悪い、もう一回言ってくれ」
 冷たすぎる泉の水を一口飲みながら言うと、ガムシャナは肩をすくめて繰り返した。
「蛭子は、閉じた鍵だと言ったのだよ」
 アキラは泉の水を盛大に口から噴いた。
「な、なんだってえ!」
「何を驚いているのだ」
 ガムシャナはアキラの仰天した様子に眉をひそめた。
「考えてもみなさい。蛭子が生まれて、白き御子が鵺をつれて現われる。偶然にしては出来すぎではないか? これは、ひとつの根から来ている」
「か、鍵ってなんだよ! 統皇もそんなこと言ってたけど」
「ああ、だから『箱』に差し込む『鍵』だ。事というのは順繰りにやってくるのではなく、一気に訪れる。原因の詰まった『箱』に合う『鍵』さえあれば、また一気に解決する。閉じたものは、開けるしかないのだ……」
「ああ、それだ!」
 アキラは興奮して立ち上がった。
「蔵書室で見たんだ! あれは───黒い表紙の本だった」
「私が屋敷に残した書だな。あれは手に取った者にとって、答えとなる言葉が浮かび出るようになっている」
「なんで、そんな大事なもんが埋まってるんだよ、あの蔵書室!」
 ガムシャナは呑気に、含み笑った。
「普段は読めないよう、術をかけておいた。悩みを持つ者が必要とするとき、本棚の片隅にでも出現すればよい、とな」
「茶目っ気ありすぎるぜ! 必要なときに急いでたら読めねえじゃんか!」
「書とは、そういうものだ」
 腕組みをして、頷いてみせる。
 アキラは目眩がした。
「もういい、つまり蛭子が『鍵』なんだな? じゃ『箱』は?」
「ふふ……」
 ガムシャナは意味深に含み笑う。
「これだ」
 指を差したのは、鵺だった。
「……」
「どうした?」
 不気味に沈黙した後、アキラは唸るように詰め寄った。胸元をねじり上げはしなかったが、限界まで顔を近付けて睨み付ける。
「おいコラ、おっさん」
 ガムシャナが目をしばたくのを無視して、
「また俺をからかってるんじゃねえだろうな?」
「からかう?」
「そうだよ! どこをどうやったら鵺に蛭子を差し込める? 『生』きてんだぞ。合体でもするのかよ、『シャキーン』とかいって戦闘物かよ! ああ、もう自分で言ってて訳解らねえ!」
 悔しさに声が嗄れてくる。
「私の言葉が信じられぬ、と言いたいのか?」
「そう───」
 言い掛けたアキラの顎を、やにわに掴む手があった。黒光りして鋭い鈎爪を持つ、鋼鉄じみた破壊の左手だった。
 黄金色の目は挑戦的な色を帯びて、対峙する相手を見定めるように細められている。
「では、やってみようか?」
 声は逆に、厭らしいほど平静だった。
「私が一押しすれば、事態は目まぐるしく進む。それこそ一気に終息するだろう」
「やれよ! できるもんなら、やってみろ」
 万力に締め付けられているような顎を、アキラは無理やり動かした。
「本当に『できる』なら、やってみせろよ! 俺はな、さっさと終わらせたいんだ!」
「簡単に言ってくれるではないか。ならば何が起こってもよいのだな? 私が関与すれば、要らぬ騒乱が村を襲うことになるが───そなたに収拾できるのかな?」
「やってみせる!」
 アキラは全身の力を篭めて、叫んだ。
「意地でも成し遂げて見せるさ!」
 ガムシャナは虚を衝かれたように、たっぷり時間を掛けてアキラを見詰め───そのうち、氷が溶けるように黄金色の目からは緊迫した色が落ちてゆく。破壊の左手からも力が抜けた。
 いましめを解かれたアキラが不機嫌そうに顎をさすったとき、ガムシャナは、つと水鏡を指差した。
「見なさい」
 カリーファの白い姿が、月影に歩み寄る姿が映っていた。鵺の身体に手を置いて、老人が抱く蛭子にも手を伸ばしている。村の者達は、穏やかな表情で立ち話に興じていた。
「ここに、一頭の鵺がいる」
 映像は獅子の頭を持つものに焦点を絞った。
 白い鳥を飾りのように乗せて、ワニの前脚に顔を埋めている。寝たふりをしているが、蛇のたてがみがそれを裏切って動き回る。
「願わくは、私の関与によって歪みを生じさせぬように!」
 ガムシャナは一度目を閉じてから、力を篭めて、指を鳴らした。
 その途端、鵺の口に固定されていた口輪が、弾け飛んだ。
「あ……!」
〈神話〉と〈童話〉の呪具は、万能の者の手に掛かれば硝子細工も同然である。細かな欠けらとなり、地面に落ちる頃には塵と化していた。
 鵺は驚いたように目を見開いた。何が起こったのか解らない顔で辺りをうかがい、徐々に自分の力を抑え付けていた物が消え去ったことに気が付く。
 前脚でひげをこすり、そして───突如として苦しみ出した。
《蝙蝠!》
 思念は水鏡を通して響いてくる。
《助けてくれ、蝙蝠! 息が詰まる、苦しい!》
「鵺……!」
 咄嗟に伸ばした手は、鵺には届かない。
《身体が壊れそうだ! 俺が俺でなくなる、恐い、どこにいる? 蝙蝠!》
 もがく姿を見詰め、アキラは不吉な予感に全身が凍った。
 立ち上がろうと手を突くが、震えていて身体を支えてはくれない。
「すぐ行くから───待ってろ」
 鵺は頭を振って何かを払い落とそうとしている。
《ああ……、蝙蝠、俺は》
 スイッチを切り替えるほどの早さで、鵺の目の色が変わる。
《もう、駄目だ……》
 頭を低くして身構えた瞬間、鵺は肉食獣の口蓋をいっぱいに開いて月影に飛び掛かった。
 子牛ほどもある鵺に体当たりされて、小柄な老人の身体が転がる。鵺は月影ではなく、その腕に収まっている蛭子に喰いつき、唸りを上げて丸呑みにした。
『箱』に、『鍵』は差し込まれたのだ。こんな形で。
「ガムシャナ」
 アキラは打ちのめされた声を上げる。
 悠然と構えていたガムシャナは片方の眉を上げた。
「なんだ? 文句なら聞かんぞ」
「違う。俺を、立たせてくれ」
 わななく足は思い通りに動いてくれない。
 ガムシャナに腕を持たれて漸く地に立ったアキラは、自分の腿を思い切り殴り付けた。不自然に筋肉が強張っている。
「大岩はすでに地表へと繋がっている。行きなさい」
「言われなくても!」
 きつい一瞥をくれて、よろけながら大岩を目指して走った。一歩ごとに確かになる足取りは、緑のじゅうたんを踏みしめて軽い。
 事態は動き出した。
 たとえ冷汗で身震いしようとも、停滞しているよりはいい。……アキラは今になって、蜜子の言葉は正しかったのだと認めた。考え込んでいるよりは、行動している方が性に合っている。
 樹々の間から、黒くうずくまる大岩が見えた。
「礼儀だから、一応言っておく!」
 アキラは立ち止まると、振り返って声を張り上げる。
「俺、人間界に住んでるから〈森〉の風が絶え間なく吹いているかは解らない! 次までの宿題にしといてくれよ、あんたが気に入らない答えを何度でも探して来るから!」
 遠くに見える人影は、手を振って『行け』と合図する。護りの右手を挙げて、笑っているようにも見えた。
 アキラは生意気な猫みたいに目を細めると、来たとき同様、肩から押し入って大岩を抜けた。


第八章(1)に続く。


やっと……第七章が……終わった。。。(どたっ)

スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://kujyakudou.blog95.fc2.com/tb.php/59-81782c00
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。