本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第七章(5)



《そこな男》
 不機嫌そうな声は、命令し慣れた口調で言った。
《礼儀もわきまえぬ態度、わらわはきわめて不快ぞ》
「はあ……」
 と間の抜けた返事をすると、光がアキラに向き直る気配があった。
《突然の訪いは赦す。しかし挨拶もせぬうちに頼みごとをするなどとは、無礼にもほどがあるのではないか?》
「ああ、うん……」
 ガムシャナが目配せしているのに気が付いて、慌てて言った。
「それは、あの、申し訳なかった」
《今更解ったとて遅かろう。だが、以後厳重に注意するように》
「まあ、頑張ります……」
 アキラまで小さくなって答えると、光の発している精気は柔らかくなった。
《まずガムシャナに、〈森〉に吹く風のことを報告せよ》
 ゆっくりと曖昧な輪郭を描き、身分の高そうな少女がかげろうのように現れる。瞳には強い意志を秘めていた。
《もののついでに教えておく。〈森〉の大気をつかさどる精霊は、ガムシャナの息子なのじゃ。常にその身を案じておる。……そこまで言えば、こやつがそなたの言うことをはぐらかしてからかったとて、文句は言えまいのう?》
「あ───」
 親が子を思う気持ち、そして子が親を思う気持ち。アキラはどちらもよく知っていた。
 言葉を失ったアキラの代わりに、ガムシャナが再び平伏する。
「お赦し下さい、姫。私がふざけ心を起こしたばっかりに」
「いや、謝るのは俺の方だ」
 アキラも跪いて、うなだれた。
「自分のことばっかりで悪かった。済まない」
《和解したかえ?》
 どことなく得意そうに言って、ふたりを交互に見やる。
《では、ガムシャナに申す。この男に道を示してやれ。……そして、後継者。全てはそなたの手で解決するがよい。ガムシャナを頼るな。万能ではあるが、今回の顛末には必要なかろう。助言を得るだけでよしとせい》
「蛭子が助かるなら何でもいいよ。素直に聞くさ」
《それが良かろう》
 淡い姿が揺らめいて、ろうそくが消える間際のように細くたなびいていく。
《わらわは少し疲れた。後は任せたぞ》
「はい。ゆっくりとお休みになって下さい」
 精一杯のうやうやしさで、ガムシャナが礼を取ると、
《休むのではない、と言うておるに……》
 と不興げに呟いて、“姫”は姿を消した。
 残された男ふたりは、揃って安堵の息を吐いた。
 ガムシャナは緊張を解いて座りなおし、アキラは水鏡の映像に変化がないのを確かめてから、草の上にあぐらをかく。
 しばらくはそよ風が水鏡の表に水紋を描くのを眺めていたが、アキラは我慢できなくてガムシャナに目を向けた。
「あのさあ、さっきの誰? あんたと違って実体がなかった」
 幾分勢いを無くした声で言うと、ガムシャナは弱い笑みを浮かべた。
「あのお方は、銀玲姫。……私の、主人だ」
「はあ?」
「説明を始めたら長くなるのだが……もともと〈森〉はあの方が全て構想を練り、私はただそれを現実のものにしようと努めたにすぎないのだ。そして黄金色の力も、姫の家系が近親婚を繰り返して作り上げ、そして姫の肉体が滅びたとき、その力を私が受け継いだ」
「えーっと……、つまり一番の功労者ってことか?」
 首を捻るアキラに、ガムシャナは頷いた。
「そうだな。その通りだ……あの方は正史に名を刻まれるのを望まなかった。だから私がひとりで作り上げたことになっているが……本来はあの方だけが崇拝されるべきなのだ。姫は私などよりも深いお心の持ち主───生あるうちから動物や人間の行く末を憂慮なさっておられた」
 懐かしいものを見つめる目つきで、ガムシャナは遠くに視線を投げた。
「〈森〉を安定させるため、魂魄となった姫は私と共に〈森〉の核となった。私は平安を祈る要になり、姫は妖魔を生み出すという大役を担った」
 堂々とそびえる大樹を仰いで、目を細める。
「地表にもあるだろう? 村の外れに、この樹が」
「……もしかして、“おしら様”?」
「そうだ。姫はこの樹に化身して、妖魔の母となっている。持てる力を全て注ぎ込んでいるために、先程のようにひとの姿をとることは滅多にない」
 アキラに誇らしげな笑顔を向けた。
「そなたは姫に謁見できた、とても幸運な後継者なのだ。そして、実をいうと私も久しぶりにお会いすることができた。少しだけ、そなたに感謝するぞ……」
 ガムシャナが銀鈴姫について語るとき、言葉や仕草の端々には愛情がにじみ出ていた。
「もしかして───あんた達は……」
 アキラは、唐突に理解した。
“おしら様”とは、旅人の安全を守る道祖神のことだ。おおむね男女一対で表されることが多い。
 恐らく銀玲姫は、ガムシャナとふたりで未来永劫〈森〉を守護し続けるつもりなのだ。輪廻を繰り返す動物は───そして妖魔も───『死』を拒んだふたりの目には旅人に映るだろう。
 そして銀鈴姫とガムシャナもまた、旅人なのだ。〈森〉というゆりかごに乗って時間を旅する者たち……。
 互いの手をしっかり握って、助け合いながら歩んでゆく。
 果てしない時を、ふたりで。
〈森〉の父とも言えるガムシャナ、そして妖魔の母たる銀玲姫。この“両親”が居るかぎり、〈森〉はいつまでも優しい場所でありつづけるだろう。
 アキラはそれを確信した。


第七章(6)に続く。



今さらだけど、もう少し字の隙間を開けてアップした方がよかったかな。読みづらいですねえ……

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