本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第七章(4)



 あっけない答えに、アキラは目を見開いた。息が荒くなって、言葉が出てこない。
「ほ、本当に?」
 囁き声で言うと、ガムシャナは含みのある笑みで、首肯いた。
「本当だ」
「蛭子を助けられる?」
「ああ」
「何もかも丸く納めることが……」
「できる」
「じゃあ、やってくれよ! ……頼む、このとおりだ!」
 アキラは衝き動かされるままに、ガムシャナに駆け寄ってひざまずいていた。
「そなたは……」
 ガムシャナは、困った顔で呻く。
「自分のことでは意地を張ってみせるのに、他者のためなら頭を下げるのだな」
「そんなんじゃない。これは───自分のためだ!」
「……」
「俺は誰もなくしたくない。目の前にいる奴を失いたくないんだ! 蛭子だろうと何だろうと。だから」
「そう決心したのは、人間の親に死なれてからか?」
 はっと顔を上げた仕草は、肯定したのも同じだった。
 ガムシャナは護りの右手で、優しくアキラの髪を撫でる。
「余程いい親だったのだろうな。そなたの本質には“祈り”がある。無我とも言えるものが」
 無造作な手つきは、払い除けるのが勿体ないほど心地よかった。それを敢えて、乱暴に頭を振り、
「俺の話なんて、どうでもいいと言ったろ」
 後退って、睨み付けた。
「はっきりさせておくが、ここに来たのはあいつを助けてほしいからであって、それ意外の話はお断わりだ。ついでにもうひとつ……俺は後継者の力を捨てる気でいる」
「……ほう」
「蛭子を助けてもらうためには何でもするが、俺は後継者として来たんじゃなくて〈森〉の代表として頼みに来たつもりだ。無理だと言うなら今すぐ帰る」
 食いしばった歯が、軋む音を立てる。ガムシャナの返答次第では、一秒も無駄にせず地下を後にする気だった。
 視線だけで殺せるほどの目つきを、ガムシャナは平気で見返して来た。
「まあ、そういきり立つな」
 間に漂う熱を冷ますように、手を振って見せる。
「少しぐらい大目に見てくれないか。なにしろ私は、前の後継者がここを訪れて以来、会話をするのは一世紀ぶりなのだぞ」
「……だから?」
「孤独な年寄りをいたわれ、と言っているのだよ。そなたが焦る気持ちも解るが、私としてはもう少しなごやかに会話をしたい気分なのでな」
「俺はそんな気分じゃない」
 とうとう我慢が切れて、勢い良く立ち上がった。
「来たのは無駄だったようだ。……帰る」
「こらこら、待ちなさい」
 骨太の大きな手で肩を掴まれた感触がした。
 重みまでもが伝わってくるほどでありながら、ガムシャナ本人は座ったままである。質量分離の術だと気が付いて、頭に血が昇った。
「離せ! あんたと問答してる暇はない!」
「急がば回れ、と言うだろう。ほら、暴れるでない───姫を起こしてしまう」
 アキラはガムシャナの言葉も耳に入らずに、肩を掴んでいる手の重みを払おうともがいていた。
「手を貸してくれそうにないから帰るって言ってんだよ、力ずくで引き止めるなんて横暴だぞ! 解らねえのかよ、このくそったれマッチョ! 時代ずれのロンゲ! 期待させるだけさせといて、のらくらしやがって!」
 歯噛みして地団太を踏む。
 そのとき、空気が一変した。
《喧しや!》
 雷鳴が轟いたような一喝を浴び、ガムシャナはがばとひれ伏した。 
 アキラとガムシャナの間に小さな光が出現し、抗うことのできない清らかな色を放っていた。
「姫! お目覚めに───」
《わらわは常に覚醒しておる。この男を離しておやり》
「はい……」
 居住まいを正して、軽く手を振る。それだけでアキラの肩に居座っていた重みは掻き消えた。
《そなたはなにをしておるのだ。子供のけんかではあるまいし》
「申し訳ありません……」
 平身低頭の態でガムシャナがかすれた声を出した。
 体の自由を取り戻したアキラは、〈森〉の神にも等しいと崇められているガムシャナが、叱られて小さくなっている姿に唖然とした。そんなことができる人物がいるとは伝えられておらず、声の主が誰かなど想像もできない。


第七章(5)に続く。



このタイミングで新たな登場人物が……ミステリーだったらありえない展開……

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