本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第七章(2)



「早速だけど、あんたに訊きたいことがある」
 アキラは早口で言った。
「俺、急いで帰らなくちゃならないんだ」
「どうした? 急に」
「村で───兎族に、蛭子が」
 地上から抱えてきた名前を口から出した途端に、平静を保っていたアキラは堪え切れなくなって、ガムシャナの腕を掴む。
「……『死』にそうなんだ、蛭子が。なんとかしてくれ!」
「待て、順序よく話をしなさい」
「だから、『死』にそうなんだよ!」
 不意に蛭子を腕に抱いた感触が蘇ってきた。弱くなりつつある脈、体温は下がり、柔らかい毛も艶をなくしかけている。アキラが時間を無駄にすれば、それだけ蛭子の状態は元に戻っていくということだった。
 アキラはガムシャナの腕を、きつく掴んで揺さぶった。
「あんたに会えば、いい方法が見つかると思ってここまで来たんだ。なあ、頼む。あいつを助けてやってくれ!」
「……待てというに」
「待てねえってば!」
 駄々をこねているようなアキラの頭を、優しく撫でる手があった。
「我が子よ、落ち着け」
 ガムシャナの声は、思いやりにあふれていた。
 見上げると、ガムシャナの表情には見覚えのある色が浮かんでいる。
 その色は今も心に焼きついている顔を思い出させた。慈しみと愛情を無償で与えてくれた、二人の人間───アキラの養親だった。
 ガムシャナと人間の親の面影が重なった。“親”だけが見せる暖かい色を軸にして。
 アキラの驚いた顔に、ガムシャナはふと戸惑いを浮かべて、呟く。
「怪我をするぞ」
 長袖が肘の辺りまでめくれ上がり、異様に黒光りをしている腕が剥き出しになっていた。鋼鉄で出来ているような皮膚と、鋭く尖った鈎爪、そしてガムシャナの持っている穏やかさとは正反対の精気が立ち昇っている。
 猛々しい感情を宿している左手だった。
「こ、これは……?」
「私の持つ、片面───いや、その名残りだな。護りの右手と、破壊の左手。極端なふたつの性が私を支えている。だからこそ、核となり得ているのだ」
「制御してるのか? バランスを保っている?」
「否でもあり、応でもある。又はどちらとも違う」
 謡うように言ってから、右手でアキラの頭を軽く叩く。
「さあ、私に何もかも話してみなさい。順序よく、落ち着いて。その蛭子とやらは大丈夫だから」
「そんなの解るもんか。もう時間が……」
「私が大丈夫だと言ったら、大丈夫なのだ。〈森〉は安定している。そなたが思うよりも、ずっと」
 口調は気楽だが、確かな自信が篭もっていた。神話、伝説の妖魔、〈森〉の核、または“意志”───さまざまな肩書きを持つ人物は、アキラの心を丸ごと引き受けて、和らげてくれた。
(俺はお前に、全て任せた……)
 唐突に鵺の言葉を思い出した。
 今にして思えば、あの時から鵺はすさんだ態度を一変させたのだった。鵺は、今の自分と同じ安心感に包まれたのだろうか。
 アキラは鵺をもっと支えてやればよかったと思った。
 相手に必要なだけ手を差し伸べるのではなく、丸ごとすっぽりと包み込んでやればよかった。
 自分にできる、できないは別にして。
 アキラは苦い想いが浮かんで、唇を噛む。
「どうした?」
 ガムシャナが顔を覗き込んできた。
 唇を尖らせて、ぷいと顔を背ける。
「別になんでもない」
 素っ気なく言った。
「俺、やっぱりあんたのこと好きになれない」
「それでも構わんさ」
 ガムシャナは笑った。
「疲れたのではないか? 向こうの泉で休むとしよう」
 と、丘の辺りを指し示した。



第七章(3)に続く。



あ、うん……その……かゆい、ですよね……

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