本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

2017/07123456789101112131415161718192021222324252627282930312017/09

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第七章(1)



 いつまでも寝転がっているわけにもいかないので渋々起き上がると、アキラは周りに目を向けた。
 地下であるのに陽が盛大に降り注ぎ、冷たい風が熱くなった頬を和らげてくれる。木漏れ日が光っていて、余計に眩しかった。
 地面は芝のような雑草に覆われていて、一塊になった樹と水仙に似た葉がそこかしこに配置されている。〈森〉と同じに幹の黒い樹だが、暗い印象を受けないのは適度に枝が制限されているかららしい。手入れの行き届いた庭園を思わせる場所だ。
 なによりも驚くのは、空間を満たす雰囲気だった。〈森〉よりも更に優しい、慈愛のようなものが漂っている。
「これが地下……〈森〉の核か」
 目を細めたアキラは、後ろでしきりに咳払いをしている者に気付かないふりをした。
「動物が来たら大喜びするだろうな」
 横歩きをして遠くに目を向ける。
「意外と広いな。なだらかな丘と小さな泉が見える。それに……うわ、でっけえ樹!」
 歓声を上げて、ほぼ中央と思える位置に屹立する樹を見上げた。アキラが喫茶店を開いているビルが丸ごと入ってしまいそうなほど太くて、丈は見当も付かないぐらいに高い。
 こんもりとした枝から見え隠れする幹は、どこまでも上に向かって続いていた。
 どこまでも───どこまでも伸び、先端は地下の“天井”を突き破って、茫とした霞のなかに消えている。
 アキラは、ほとんど頭を仰け反らせて、
「なかなか気合い入れて、育ってんなあ……」
 と呟いた。
 うっかり背後の黒髪が目の隅に入り、慌てて戻す。
「それにしても、空の色は真っ白だな」
「……」
 何か言いたげな雰囲気を察して、ひときわ声を張り上げた。
「あれ? さっきまで扉だったのが岩に変わってるぜ。これは村にあった、大岩か」
 早口で言って、屈み込む。
「この花は矢車菊か? お、こっちにキャットテールも生えてる。ミイに持って帰ってやるかな。……あいつ、きっと怒るぞ」
「……」
「ミントが自生してるのか。へえ、新鮮でかおりがいいや。俺も店の裏に種を播いてみようか。買わずに済むなら楽だし」
「……」
「こっちのはなんだろう。レモンバームに似ているけど……ああ、ただの草か。このオダマキみたいなのも、草だな。んで、そっちのも、草……だよな───」
 何を言っているのか解らなくなって、アキラはそのまま動かなくなった。いい加減、独り言にも限界がきていたのだ。
「……」
「……」
 沈黙が落ち、辛抱強く待っていた後ろの人物はため息を吐いた。
「そろそろ、よいかな」
 諦めの気配を濃くしている。
「こちらを向いてくれないか。挨拶がしたいのだが」
「やだ」
 アキラの返事は簡単だった。
「本当のこと言うと、あんたに会いたくなかったんだ。でもここまで来ちまったし……困ったこと抱えて来たからあんたを頼らざるを得ないし」
「そう言われても困るのだが」
「一番困ってんのは俺だよ」
「それは……どちらでもよいが」
 吹き出す寸前のような声だった。
「どうすればよいのだ? 何でもいい、言ってみなさい」
「……どう、って」
 アキラはかたくなに背中を向けて立ち上がると、ふんぞり返って見せた。
「大変な思いしてここまで来たんだ。少しは労わってくれ」
「そうか、解った」
 くすくす笑った。
「わざわざこんな地下までご苦労だった。……これでよいか?」
「はん!」
 漸くアキラは、振り返った。
「別にいいけど!」
 拗ねた顔とセットになって、腕組みをして仁王立ちになる。それを見て相手はひとしきり笑った。
「なんだよ?」
 片眉を上げて訊くと、
「いや、そなたはなかなか味のある奴だと思ってな」
 親しみの篭もった声に変わった。
「……初めまして、だな」
「そうだな。まあ今更ご挨拶もないもんだと思うけど───あんたがガムシャナ?」
 微笑みを浮かべて立っている男は、鷹揚に首肯いた。
 鋼のような逞しい体付きに、簡素で動きやすそうな麻衣をまとっている。肩まで伸びた黒髪をそよ風になびかせ、引き締まった顔はやや浅黒い。ガムシャナは、正史に刻まれている通りの美丈夫だった。
 瞳は極限にまで光量を落としているが、統皇よりも眩い黄金色を持っている。混じり気なしの純金の色で、なおかつ力強い。


第七章(2)に続く。



終りが見えてこない……ぐおおおお……

スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://kujyakudou.blog95.fc2.com/tb.php/52-085bb41b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。