本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第五章(6)


「後継者様」
 月影が声をひそめた。
「先程の話、本当ですか」
「そうだ。鵺が感じたらしい。俺の血を入れれば、暫らくは保つと」
「して、この生き物は……?」
 すでに三百年近く生きている老人は、困惑した顔で鵺を見詰めた。蛭子同様、前例がないらしい。
 言いよどんでから、
「さっき、統皇に会わせた。妖魔だと言われたらしい」
「なんと! それは……それは」
 返事に困っている。
《なんか引っ掛かる反応だな》
 拗ねた目で見上げる鵺を、アキラは軽く叩いていなした。
「───で、これからなんだが」
 月影は、表情を強張らせた。
「一時的なのでしたな? あなた様の血によって、回復しているのは」
 繰り返して言われると気分が重くなる。
「あと、どのくらい保つかは解らない。急がないと」
「しかし、どうすれば」
 消沈しそうな雰囲気に、何やら楽しげな笑い声が流れてきた。カリーファが、ハンカチをライターであぶって「あら不思議、燃えないよー」などと言っている。アキラはこめかみの辺りがひくつくのを感じた。
「……俺に心当たりがある」
「心当たり、というのは?」
「もしかして手がかりが掴めるかもしれない。約束はできないが」
 アキラは慎重に言葉を選んだ。
「期待されると困る。何もしないよりはまし、ってぐらいだな」
「一縷の望みがあるならば、是非にもお願いします。我々はこの仔を助けたい」
「だったら頼みがある。このことは絶対に内密にしてくれ。俺が何をしようとしているのかを訊いてはいけない。もし仮にうまくいっても、どこから情報を仕入れたのかを詮索するのも駄目だ」
 月影は首を傾げたが、すぐに首肯いた。
「解りました」
「そうと決まれば、さっそく……」
 蛭子にあてていた手を、そっと持ち上げてみる。血が乾き始めていて剥がし難いが、薄桃色の肉が健康そうに色付き、暫しの安心感を与えてくれた。
「───薬を」
 念のため蛭子の傷口に軟膏をすり込んでおく。癒しの術が効かないのであれば、薬に頼るしかなかった。
 包帯を巻いてやり、痛々しい様子になった蛭子を月影の腕に返す。
「あなた様も傷の手当てを……」
「俺はいい。こんなのすぐに治る」
 自分の手をちらと見て、アキラは顔をしかめた。すでに薄皮が張り始めている。
「脈に気を付けていてくれ。容体が悪くなるようだったら、今度は統皇に頼むんだな」
「はい。あの」
 長老は口篭もってから、深々と頭を下げた。
「ありがとう、ございます」
「礼には及ばない。どうやら俺の役目だったみたいだからな」
「いえ、あの……」
 月影は痩せた肩をすぼめる。
「あなた様がこれほどまでに、我々のことを気に掛けてくださっているとは今まで知りませんでした。人間界に行ったきり、滅多にお戻りにならないので、……その」
「誤解してたと言いたいのか? 俺は〈森〉を嫌ってると?」
「……」
 答えなかったが、皺に埋もれた目には哀しげな色が宿っている。それが何を意味しているのかは解らなかった。
「点数を付けるとしたら、56点……」
「えっ?」
「半分当たり、ってことだよ。俺は俺なりのルールで動いている。でも残った半分は、普通の妖魔の倍は〈森〉を気に入っている」
 言い捨てるようにして、立ち上がった。唇に指を付けて、いつもの術を呼び起こす。
「一言で言えば、フクザツ……かな」
「後継者様?」
「もう行く。こっちを見るな」
 緑掛かった目をゆっくりと閉じ、慣れた仕草で姿を見えなくする術を掛けた。光を屈折させるだけだが、身体を形作る成分が分解して、周囲の風景に溶け込んでしまったように見えるはずだ。
 不意に、痛みをこらえるような呟きがアキラの耳を刺した。
「好む好まざるに関わらず、あなた様は後継者なのです。その事に、気付いて下さい」


第五章(7)に続く。

終わりは、まだ……なのか……
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