本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第五章(5)



 赤黒い血がゆっくりとあふれ出し、地面に滴り落ちる。
 血の匂いが広がり、後ろに控えていた月見が後退った。
「なんて事をするのです! アキラ様」
「うるせえな。早く薬を持って来いよ」
 神経が泡立つような痛みに顔をしかめ、せっかちに首を巡らして見知った顔を見つける。
「……猿、お前のところにあるだろ?」
「は、はい!」
 猿族の男が慌てて立ち上がった。代々、薬草を扱うのに長けた一族である。
 ざわめく周囲を無視して、アキラは蛭子の身体にはさみをあてた。
「後生です、お止めください!」
 縋り付いてくる月影の体を、アキラは邪険に振り払う。
「触るな!」
 怒りに目を釣り上げて、怒鳴った。
「手元が狂うじゃねえか! 俺を信じるんだろ?」
「しかし……」
「爺さん」
 アキラのきつい顔が、不意に和らいだ。そうすると気弱で繊細な表情になる。
「そんなに俺って、頼りないか? 任せられない、かな?」
「……」
 唾を飲み込んだ月影が、その場にへたりこむ。
 アキラはこっそりと笑った。年寄りは勝手に色々なことを慮ってくれるから扱いやすい。
 何をするつもりなのかと虎族の子供が覗き込み、村の者たちも背中に圧迫感を感じるほど詰め寄ってきていた。
「頼むぜ」
 誰にでもなく呟いて、アキラは蛭子の毛皮を、そっと切り付けた。
「……!」
 鮮血が飛び散る。すかさず傷口に自分の傷を重ねあわせると、柔らかい脈動が伝わってきた。蛭子も、心臓そのものの音を聴いているのか身じろぎをする。
「俺の血が流れてゆく。───ほら、身体が暖かくなってきた」
 どこか得意そうに言って、空いてるほうの手で月影の手首を掴む。無理遣り引き寄せると、蛭子の毛皮にあてた。
「おお!」
 信じられない顔で、老人は弾んだ声を上げる。
「脈が感じられる! 先程は消えそうであったのが、今はしっかりと力強く……」
「涙にむせるのはまだ早いぜ。これは一時的なものだ」
 老人の喜色にあふれた顔に、アキラは慌てて言った。
「実は、あいつに聞いたんだが───」
 鵺を振り返って、真剣な面持ちで告げる。
「暫らく保つ程度だ。決定打じゃない」
 月影を始め、村人たちの視線が注がれたのを感じて、
「あ、こんにちは」
 カリーファはとぼけた挨拶をした。
「なんだか大変なところに来ちゃって、ちょっと困ってます。あの、皆さんも色々と心配な事があるみたいですけど、早く解決するといいですね」
「なに社交辞令述べてんだよ。こっち来い」
 アキラに手招きされて、カリーファと鵺は呑気に近寄った。
 不審そうな顔をした狐族の女が、
「ボク、どこの子?」
 と屈み込む。
「えーっと、それは言えないんだ。ごめんなさい」
 にっこり笑って、白い頭をぺこりと下げる。
「本名も言えないけど、とりあえず『カリーファ』と呼んでください。手品師をやってます。それと、こいつはキマ鵺。よろしく」
 蜜子にしたのと同じ自己紹介をして、薄茶色の目を微笑ませた。周囲の戸惑いが深くなる。
「怪しい奴じゃない。統皇の客だ」
 アキラが言うと、やっと合点がいったのか人垣が割れて、通してくれた。
 そこへ、猿族の男が、薬袋を持って駆けてきた。
「遅くなりました! アキラ様」
 礼を言って受け取ると、ふと思いついたようにカリーファの白い頭を小突く。
「お前、手品師なんだろ? だったら披露してやってくれないか。みんな疲れてるだろうから、息抜きで」
 アキラは目配せしながら言った。
 それに気が付いたのか、
「うん! じゃあ向こうの広いところでやるよ」
 と、少し離れた井戸へと歩いてゆく。歓声を上げた子供がぞろぞろと附いて行き、つられた大人も遠巻きにしてカリーファの姿を見守った。
 体よく人払い出来たお陰で、アキラと鵺、月影は緊張した顔を付き合わせた。

第五章(6)に続く。



うああ……うあああああ……
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