本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第五章(4)


 兎族の月見である。
 コートやマフラーを脱ぎ捨てて、小さなチョッキをまとっただけの姿になっていた。
「来てくださったのですね、有り難いことです」
 駆け寄ってきて両手を握ってくる。その声は、涙で押し潰されそうになっていた。
 うずくまっていた妖魔たちの何人かが、アキラに気が付いて会釈をした。それに手を振って応えると、月見の背中を撫でながら、優しい声で訊いた。
「どうしたんだ。仔に何かあったのか?」
「それは……」
 月見は息を詰まらせる。
「会ってやって下さいませんか? あたしの口からは、とても」
 細長い耳を力なく垂らして、建物の奥へと促した。扉を開け放った家の中には兎族の妖魔がひしめいている。その真ん中に長老の月影が蹲っていた。
 人間型の月影はひどく年老いた老人であるが、これほどまでに皺が深く刻まれた顔は見たことがなかった。アキラは場所を空けてくれる村の者に声を掛けながら進んだ。
「後継者様」
 月影の重い声が胸に突き刺さる。
「心音が弱っています。体温も下がってきておりますし、このままだと時間の問題かと」
 老人の表情は苦渋に満ちていた。
「蛭子であろうとも我々の仲間。『死』なしとうはございません。しかし───」
「水鏡は? 癒しの泉なら」
「まだ幼すぎて、駄目でした」
「気を注いだのか?」
「はい。しかし受け付けません」
「統皇には……」
 アキラは狼狽して、統皇の屋敷を振り返った。そうそう都合良く現われてくれるはずもないが、身体が勝手に期待したのだ。
 月影はため息を吐いて、
「たった今、使いを出しました。あの方なら見捨てなさるはずはないと思いますが、我々の力では解決は望めないだろうと……」
「そう言ったのか? 統皇が?」
「この仔を授かったときに、仰っていました。ですから───」
 腕に抱いているものを差し出した。
「どうか、抱いてやって下さいませんか。あなた様の温もりを感じさせてやりたいのです。せめてもの慰めに」
 アキラは真っ白い毛玉を受け取った。
 蜜子の言葉どおりに、頭も手足もない。ただ丸い身体であるが、兎族らしい銀の毛は柔らかかった。
「なんてことだ。本当に打つ手はないのかよ?」
 呟きに、答えるものはいない。押し黙ったまま辛そうに目を伏せている。
《───血だ》
 突然の思念に、アキラは振り向いた。
 村の者が作っている輪から離れた向こうに、鵺が獅子の目を光らせてアキラを見詰めていた。
《血を分けてやれ。暫らくは保つだろう》
「なぜ解る?」
《説明できない。ふと浮かんだ》
 戸惑う目に変わって、鵺は俯いた。
《お前の血は強い。だから───》
 アキラは自分が抱いている蛭子を見て、月影に視線を移し、それから鵺へと戻った。はたして本当に有効なのか、信じてもいいのかが測れない。
 妖魔たちの前で、蛭子に血を分け与える。それをするのは容易いことだ。しかし、もし失敗すれば、妖魔たちの動揺は広がるばかりだ。最悪の場合、収拾が付かなくなる。
 迷っているアキラを見透かすように、鵺の目が真っすぐ突き刺さってくる。それを受けて、アキラの胸は痛んだ。
 鵺を信じることを迷っている自分は何者なのか。
 少なくとも今この場では、どちらの側でいることを求められているのか。そして、自分はどうしたいのか。
 数多の妖魔がアキラを見つめている。鵺も、穏やかになった目でこちらを見ていた。
「そうか、そうだよな」
 月影の不思議そうな視線に、アキラは不敵に笑った。
「爺さん、あんたは俺を信じるだろ?」
「……え? ええ」
 戸惑いを隠し切れない返事を聞いて、壁に架けてある花切りばさみを取り上げる。
「ここがどこだか忘れてたぜ。要は信じればいいんだ」
「何を───」
「血止めの薬を用意してくれ。それと包帯」
「後継者様……!」
 はさみを開いたアキラに、月影が止めようとして手を伸ばす。それを振り払って、刃先を自分の掌に突き刺した。


第五章(5)に続く。


どうやら長すぎたようだな……ふっ(泣)
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