本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第五章(2)


「それと言付け。アキラちゃんが書いてくれた要望書を読んで、意に沿うようにすると言ってたよ」
 アキラは鵺から聞いた事情を詳しく文書にして、通り掛かった者に届けさせた。約束した通りに、〈神話〉へ厳重な抗議とともに、鵺の名誉のために心からの謝罪を要求するというものであった。そして、この件を正史に刻むように付け加えた。
「鵺のこと、何か言ってたか?」
「うん。なんでもキマ鵺ってさ、妖魔らしいんだ」
 さらりと言われたので、アキラは「ふうん……」と聞き流すところだった。
 一瞬凝固した姿勢になり、激しく咳き込む。
「はあ? あいつが、妖魔?」
「そうみたいだよ。はっきりとは言ってくれなかったけど、何かがおかしいって首かしげてた。酷く分裂した感じがするって。でも、変なことを言ってたなあ……。『閉じたものを開ける鍵───』、とかなんとか」
 アキラは突然、カリーファの肩を掴んだ。
「『閉じたものを開ける鍵』?」
「そうだけど……痛いよ」
 小柄な身体がもがいているのに気が付いて、アキラは手を離した。
「悪いな。ちょっと……」
「どうしたの?」
「いや───さっき、どれかの本に書いてあったような気がして」
 考えながら、本棚の壁に目を這わせた。
 蛭子について参考になるかと思って蔵書室に籠もったが、適当に流し読みしていた中に似た印象を受ける一文を見かけのだ。ただ、それがどの本に載っていたのかが思い出せない。
 アキラは塔の内部に詰め込まれた本を、厳しい表情で眺めて、肩を落とした。
 もう歴史書を手に取ることさえ食傷気味である。
 ドギーとミイを呼び付けて手伝わせようかとも思ったが、その案は瞬時に脳裡から追い払った。あのふたりは以前に統皇が大事にしていた茶器の整理を頼まれ、半時間も経たないうちに殴り合いの喧嘩を始めて、コレクションを全滅させた前科がある。
 統皇は温和な性格なので、茫然とした末にため息を吐いただけで赦したが、四鬼獣はかんかんに怒って口が開かなくなる術を掛けた。口喧嘩出来ないように、と。
 そんな経緯があるので、屋敷には呼びたくない。自分で探すのもきつい、となれば───
「統皇に訊けば早いんだろうな、多分」
 謎の言葉にしろ、蔵書の中で見かけた一文にしろ、直接訊けばいいのは解っている。蔵書の管理をしているのは統皇であり、ほとんどの書に目を通したと言われているのだ。
 しかし、それは最後の手段にしたかった。
 アキラの胸に、先ほどから感じている痛みが強くなってくる。アキラが嫌悪感をあらわにした途端、傷付いた目をした統皇───
「まだ暫らくは会いたくないし、会えねえな……」
 ため息混じりの言葉に、カリーファは目を見開いた。
「どうしてさ! 統皇さんに訊けば判るかも知れないんでしょ? いいひとだし、きっと教えてくれるよ!」
「そりゃあそうだろうな。しかし、俺には俺の事情があるんだよ」
「それってどんな?」
「簡単に言えることじゃねえよ」
 アキラは軽く肩をすくめ、カリーファの背中を思い切り叩く。
「さあ、もう話は終りだ」
「勝手に終りにしないでよ。僕には言ってくれないの?」
 背中をさすりながら、カリーファは薄茶色の目を翳らせる。アキラはそれを見ないようにした。
「俺は今から村に行かなきゃならねえんだ。お前はどうする?」
「村、があるの?」
「そうだ。妖魔がいっぱいいるぞ」
「僕も行っていいの? キマ鵺も?」
「構わないぜ。邪魔しなければな」
 アキラがからかうように顔を覗き込むと、少年の表情は簡単に晴れた。
「〈森〉の村、見たい! 早く行こうよ、ねえアキラちゃん!」
 と飛び跳ねる。その喜びように、アキラは早くも後悔し始めていた。
 兎族で起きている蛭子の問題は、カリーファの能天気な性格が割り込んできたら更に訳が解らなくなりそうだった。
 しかも蜜子の言った「災厄」の一言が、頭の片隅に居座っていてしつこいぐらいにちらつく。
 睨むように見つめていると、カリーファはふとのん気な顔を引き締めた。
「そうそう、これ受け取ってよ。統皇さんから直々に頼まれたんだから、アキラちゃんに手渡す義務があるんだ」
 ずっと手に持っていた手紙を渡した。アキラが受け取る様子を見せないので、渡しそびれていたらしい。
「必ず読むように、と言ってたよ」
「あん? 自作のポエムでも書いてあるんじゃねえだろうな」
「……ポエムって、何?」
 首を傾げるカリーファに拳骨を食らわせて、封を破る。
 中には、たった一行しか書いていなかった。
「───な、んだと?」
 便箋を持つ手が震える。
「あんの、しらばっくれ中年が……!」
 ふところの隙間から顔を出したカリーファが、面白がって読み上げた。
「『地下に行きなさい』───なに、これ?」
「そのまんまの意味だよ。ちっくしょう!」
 くしゃくしゃに丸めて、床に叩きつける。それでも気が治まらなくて足で踏み付けた。
「あー、頭にくる! 統皇なんぞに一瞬でも申し訳ねえと思った俺が馬鹿だった! やっぱ最高に気に入らねえ!」


第五章(3)に続く。

ぶくぶくぶく……どたっ。

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