本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第四章(2)


「うわー、暗ーい!」
 カリーファの語尾が、陰陰と谺した。
 アキラが降りてくるまで面白がって声を張り上げていたらしく、遠くの方で微かな響きを帯びている声は別の言葉尻を繰り返している。
「遊んでるんじゃねえよ。おら、さっさと歩け」
「でも真っ暗だよ。何も見えない」
「目が慣れてないからだ。辛抱しろ」
 蝙蝠族の目には、白い人影の隣に白い鳥の姿がぼんやりと浮き上がって見える。しかし通常の視力では、ほぼ闇に包まれていると思っても無理はない。
 そう思い直して、
「……火、よ」
 呟いて、手首を返す仕草をした。
 その手に青白い炎が燃え上がる。軽く放り投げると、天井近くで揺らめきながら、宙にとどまった。実際の炎ではなく、燐に似た物質である。
 周囲が薄く照らされて、カリーファが嬉しそうに振り返った。
「凄いね! これって魔法なの?」
「そんなんじゃねえよ。これは『術』だ。動物の能力を凌駕した力であって、非現実的な魔法とは違う。生きるために必要な能力、というか……個性みたいなもんだな」
「よく解んないよ」
「……うん、まあそうだろうな。実を言うと俺だってこれが何かよく解っていない。でも使える。───その程度のもんだ」
 アキラは苦笑して見せて、カリーファを軽く蹴飛ばした。
「ほら、明かりが点いたんだから、さっさと歩く!」
「あん、乱暴しないでよ」
 頬を膨らましたカリーファをいなし、じっと佇んでいる鵺の身体を叩いた。
「おとなしいな。まあ、それはそれで結構だけど」
《悪いか?》
 頭に白い鳥を乗せたまま振り向く。
《俺はお前に全て任せた。───出発の号令を待っていただけだ》
「あ、そう……」
 拍子抜けして呟き、「んじゃ、行くか」と中途半端な号令を掛けた。
 穴の中は地下通路のように閉鎖した空間だった。天井はアキラが飛び跳ねれば届く程度にしかなく、横幅などは両手をいっぱいには広げられない。
 並んで歩けないので、一行は一列になって進んだ。
「これって、どのくらい長さがあるの?」
 首を捩じ曲げて訊いてくるのを、「前を向けよ」と無理遣り顔を掴んで戻してやる。
「長さ……は、計ったことがないようだな。ひとそれぞれ違うから」
「違う?」
「そうさ。よく覚えておけよ、〈森〉というのは『想念の場』なんだ」
「そうねん、の、ば? 想いが形になる……ってこと?」
 顔を見ないと話しづらいのか、いちいち振り返ってくる。
 それを直してやりながら、
「正確には『想いが形になる事の可能な場所』、または『想いが形になることで維持できている場所』かな。動物と妖魔の“楽園”を求める気持ちが、〈森〉を作っている」
「随分と〈神話〉の世界と違うなあ。あそこはふわふわしていたけど、そういうのはなかったみたい」
「準異世界と一緒にするなよ。それに一応〈森〉は、最初に出来た異世界だぞ」
「それってどういうこと?」
 単純に不思議そうな顔で首を傾げる。
「僕、異世界と準異世界の差が解らないんだ。ちょっと教えてよ」
「ひとことじゃ説明できない。長い話になっちまう」
「それでもいいよ。だって、歩いてるだけじゃ退屈だもの」
 面白い話を期待しているのか、爪先を踊らせた。
 アキラは舌打ちすると、わざと首の関節を回して見せる。
「ほとんど神話になってるぐらい古い、乱世の時代から始めないと、か。ああ、面倒臭え」
 聞こえるようにぼやいた。
「ぶつぶつ言わないの。さあ、早く早く!」
「解ったよ。……とんでもなく、すっごい昔、原初には人間界しかなかった。そこに人間と動物、そして神がすんでいた。そこまではいいか?」
「余裕でオッケー」
 屈託のない言い方になぜかむっとして、首の骨が軋むほど強く前を向かせる。
「混沌とした世界に体系の違う生き物が一緒にされたことで、それぞれに負担、つまりストレスを強いられ、負の感情を刺激するものが生まれちまった。それが『邪鬼』だ。墨が気体になったような、黒い煙だと言われている。
 それは次第に地上を覆い尽くし、生き物たちを狂わせた。血みどろの殺戮、共食い、裏切りが横行した。爆発的に増えた邪鬼のエネルギーは、しまいには草木も生えないほどの荒廃を呼んで、火山は噴火するわ地割れは出来るわの大カタストロフィを呼んだ」
「神様は助けてくれなかったの? 同じ場所に住んでいたんでしょう」
「神は、逃げた」
 簡単に言ってから、肩を竦める。
「人間と動物が争い合う地上に恐れ戦き、安全な天の一角に引き篭もった。『穢れ』から目を背けたんだ」
「ひっどーい」
 怒った顔をして振り向いたカリーファに、アキラは苦笑いした。
「神ってのは穢れとは対極の存在だからな。仕方がないといえば仕方がないんだ」
「それにしても、酷くなる前に手を差し伸べる気持ちぐらいなかったのかなあ?」
「邪鬼が出現した時点で、自分たちの手には負えないと思ったんだろ。とにかく、神に見捨てられた地上は崩壊寸前になった」
 話を戻すついでにカリーファの首も戻してやる。しつこいくらいに前を向かせるのは、足元が暗い中を歩いているからだ。時々瓦礫のような物が落ちていることがある。
 急にうな垂れた白い頭は、足元を見ているわけではなさそうだった。
「……寂しくなかったのかな」
「はあ? 誰が」
「人間と動物だよ。見捨てられるなんて、厭だよね」
 口調は重く沈み、後姿さえも暗闇に呑まれそうに見えた。
 アキラはカリーファの後頭部をつついて、振り向かせる。
「生きていくのに精一杯で、それどころじゃなかったと思うぜ? 第一、見捨てられたことすら解らなかったんじゃねえのかな」
「でも……」
「生き物ってのは、案外強いんだ。絶望さえしなければ生きていける。生きていけるからには生き抜くしかない。そう考えるのが自然だ。俺の言っている意味、解るだろ」
「うん」
「だったら気に病むな。……ほら、もう前を向けよ」
「あん、自分勝手なんだから、もう」
 押しこくられてカリーファは形ばかりの文句を言ったが、曇った顔は既に晴れていた。
「それで? どこまで話は進んだっけ?」
「ん?」
 とアキラは首を傾げ、真っ白い背中を小突いた。
「お前が余分なこと言うから、解らなくなったじゃねえか」
「僕のせい?」
 ふたりは唇を尖らせて、そっくり同じ表情を見合わせる。
《地上が崩壊しそうになった……というところまでだ》
 黙って歩いていた鵺が、笑いをかみ殺すような口調で言った。
「ああ、そうそう」
 アキラは、悔しまぎれの陽気さで手を打つ。
「地上は崩壊しそうになった。砕け散る寸前までいって、ばらばらの小惑星群となる一歩手前、細かい塵とガスを撒き散らした『かつて地球だったもの』に成り果てるかと思ったとき、いや、実際そうなりかけた。本当にあと数日もすればなっていた。真空の暗い宇宙に空中分解する青い地球───恐ろしいことだな。真面目な話、そこまで切羽詰まっていた」
「えーっと、その辺は解ったからもういいよ」
「もしあのままだったら、飛び散った海は絶対零度の宇宙空間では氷となっていただろう。氷塊は太陽の引力に引き摺られて彗星となり、深遠の中にひとすじの光を残す天体ショーになっていたな。分離した塩分が、太陽風に晒されて結晶と化すところを想像してみろよ。それらは宇宙を漂いながら、雪片のように煌めいて……それはもう美しいぞ」
「解ったってば」
《お前、まさか……》
 鵺が振り返った。
《話の続きを知らないんじゃないだろうな?》
「ば───」
 鋭い突っ込みに、術で生み出した炎がアキラの代わりに激しく揺らいだ。
「バッカじゃねえの! 俺はくそつまんねえ神話なんか全然うろ覚えじゃねえし! まして面倒臭いから話をはぐらかそうなんてこれっぽっちも思っちゃいねえよ!」
 気が付くと、話の見えていなかったカリーファが、湿っぽい目付きで睨んでいた。
「うっわー、ヤなひと」
「放っといてくれ」
 拗ねた口調で鵺とカリーファをひっぱたき、
「……で、地上は崩壊しそうになった」
 アキラは強引に話を戻した。
「もう何事もなかった顔してるよ」
《こういう奴なんだよな。ついてきて損した》
「で! 地上は! 崩壊しそうに! なった!!」
「きゃあ! 耳元で怒鳴らないでよ」
 とうとうカリーファは笑い出した。
「その先は?」
《俺も聞きたい。崩壊はしなかったんだろ》
「当然だ。つまりだな、奇跡が起こったんだ」
 アキラはようやく、先程と同じ調子で話しだした。

第四章(3)に続く。



ぐわおおお……これは苦行ですか? かゆ。うま。
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