本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第四章(1)


 あれだけの騒ぎがあっても、ドギーとミイは目を覚まさなかった。取り敢えずよく見えるところに、『きれいに掃除しておくこと!』という書き置きを残して喫茶店を出る。
 そして鵺とカリーファに、周囲の空間を捩じ曲げる術を掛けて姿が見えないようにした。
「いいか、絶対に話し掛けるなよ! 人間に見られたらまるっきりの怪奇現象だと思われるからな」
「どうして僕まで消すの?」
「話し掛けるなってば!」
 不毛な会話を続ける間もなく、住宅街を抜けると突然空気が変わる一帯に入った。天にも届きそうなほどの木立が周囲を圧し、人間世界とは違うことを厳然と示している。
 付近一帯には妖魔しか受け入れない結界が張ってあった。
 アスファルトの道路からはみだしそうな雑草を掻き分けてゆくと、微かにだが踏み分け道の土色が見える。密集した木々の向こうに、崩れ掛けて菌糸類の住処と化した建物があった。遠い昔に捨てられ、忘れられた神社だった。
〈森〉へと繋がる穴は、この神社の内部に開いているのだ。
「うわー……、なんか建っているのが不思議なぐらいだね」
 素直な感想に、アキラは、
「次の台風が来たらアウトだろうな、ここも」
 と振り返った。見えなくする術を解いて、鵺とカリーファを見詰める。
「今、蜜子が〈森〉と連絡を取ってるから、暫しの待機だ」
 半分腐った賽銭箱を蹴飛ばしてどけると、社殿に登る階段に腰を降ろした。
「客として招待されないと〈森〉には入れないからな。それまで、詳しい説明でもしてもらおうか」
「何を?」
「今までの状況だよ。……おい、鵺!」
 退屈そうに後ろ足で耳を掻いていた生き物に、厳しい目を向ける。
「そこで他人事みたいな顔してるんじゃねえよ!」
《けっ》
 人間型だったら、さぞかし憎らしく見えるだろうという目の色でそっぽを向いた。アキラは真剣に殺意を覚えて腰を浮かせたが、忍耐の限界に挑戦して勝利を治めた。そんな自分を密かに誉めてやる。
「この超ウルトラ・スーパー寛容な俺様が事情を聴いてやる。お前等は腰を低くして控え目、且つ簡潔に説明すること」
「うわー、いきなり居丈高になったよ、このひと」
《極端から極端に変わる奴だな。情緒不安定なのか? それとも単なる馬鹿?》
「うるっせえよ!」
 拳を振り上げて、寛容とは無縁な割れ声で怒鳴った。
「いいから、さっさと説明しやがれ!」



 準異世界である〈神話〉は、茫洋とした世界でありながらも安定していた。かつて存在していた神々は人間界に対する影響力を失い、ただなんとなく集って歌を歌ったり詩を朗読したりする毎日を続けている。夢のように穏やかで、変化のない場所だった。カリーファはミューズの歌声に惹かれて〈神話〉を訪れ、そのまま居ついていたらしい。時には戦神と一緒に幻影の動物を狩ったり、ドラゴンを退治に出掛けたりと、すっかり馴染んでいた。
 そんなある日、突如として悲鳴は始まった。〈神話〉と隣り合わせに〈童話〉という物語の登場人物が住まう世界があるのだが、一部が重なり合っているために澱みの部分が出来ている。そこから、一匹の化け物が生み出された。───それが鵺だった。
 狂暴な牙で逃げ惑う神を喰い殺し、〈童話〉の柔らかな空気にも血の匂いを撒き散らした。被害は甚大であった。
 準異世界の住人は実体を持ってはいないが、恐怖によって殺される。幾人もの有名な者達が消え、名前すらも残さなかった。
 和御魂の進言で、甕に盛った酒が大量に用意された。鵺はその策略に引っ掛かり、酔い潰れたところに口輪を嵌められて捕らえられた。霊力の篭もった呪具は鵺の力を失わせる効果があった。
〈神話〉と〈童話〉の合同会議が持たれ、獣は獣の世界に帰すべきとの結論が出た。
 そしてふたつの世界とは関係のないカリーファが『使者』として立てられた。親書の扱いは非公式のものだという。
「保身に走った、か……」   
 アキラは呻いた。
「準異世界とはそういうものなんだろうな。世界を維持するのに精一杯というところか───それかむしろ、弱まっていると考えるべきか」
「弱まってる? そうは思えなかったけど?」
 驚いた顔でカリーファが言うと、アキラは鼻で笑った。
「自分たちで解決できずに追っ払っただけじゃねえか。しかもお前みたいな部外者の手を借りなければ、この鵺を他世界に送ることもできなかった。要は力が足りないんだ」、
「優しいひと達なんだけどなあ。僕には本当によくしてくれた」
「それとこれとは関係ねえだろ。……まあ後はこっちの問題みたいだし、深く考えるな。白髪がはげるぞ」
「これは白いだけ。白髪じゃないよ!」
 カリーファは頬を膨らませ、小石を蹴飛ばした。そんな仕草は子供っぽく、どこか愛嬌がある。
 アキラは肩を竦め、鵺に向き直った。
「やい、こら化け物」
 ふて寝を決め込んでいた合体生物は、目を開けただけで動こうとしない。
《俺のことは『崇高な魂』と呼べと言ったろ》
「さっきと違うじゃねえか」
 木切れを投げ付けて、睨み付ける。
「どうして襲った? 何か恨みでもあったのか?」
《……》
「腹が減ったとかの衝動ではないな。第一、神なんて旨そうじゃねえし。楽しいからとか嫌がらせの類とか、何かあるんだろ?」
《訊いてどうする?》
 獅子の目を光らせて頭をもたげ、鵺はのっそりと起き上がった。ワニの前脚で砂を掻き、背中の筋肉がかすかに盛り上がる。
 いつでも襲いかかれる体勢だった。
 アキラは緑掛かった目に力を籠めた。
「別にどうもしねえ。俺は単に知りたいだけだ」
 徐々に瞳の圧力を強める。
「認めたくないが、お前は確かに動物だ。だったら俺は、お前が何を考えていたのかを知りたいと思う。なぜ襲ったのか。襲いながら、爪で斬り裂きながら、どんな想いでいたのか───それを聞くことを、俺の心が求めているんだ。お前の考えていたことを知りたい、と」
 互いに視線で戦っていた。相手をねじ伏せようという力と、それを撥ね返す力で。
 しかし勝負は最初から決まっていた。
《……変な奴》
 負け惜しみを呟くと、鵺は顔をそらした。
《俺を恐がるから、頭にきた。───血に飢えた獣だと決め付けやがって》
「始めから襲うつもりではなかったんだな?」
《わからない。だが、そうだと思う。……気がついたら俺は退治されようとしていて、それを迎え撃っていた。血の匂いにめまいがするような気分になって……それからはもう訳が判らなくなっていった》
「そうか。わかった」
 アキラは頷いた。
「それを聞いて俺の態度は決まった。〈神話〉と〈童話〉の世界を告発する」
 鵺が驚いたように目を見張り、カリーファは鵺の表情に驚いている。それを茶化すように見比べて、
「一応、俺は〈森〉の中では統皇に次ぐ地位にいるらしい。今回はそれをフルに活用して、お前が受けた辱めを不当なものとして抗議してやる。ここまでこけにされて、黙っちゃいられねえよな」
《……》
「お前と俺たちを、『獣』呼ばわりした奴らの鼻を明かしてやるさ」
《本気で言ってるのか?》
「俺はいつでも百パーセント本気だぜ。……もし、それでも足らなきゃ〈神話〉に乗り込んで神々をぶん殴ってやる。そんなところでどうだ、何か不満はあるか?」
 鵺は身体を起こして座り直した。
《好きにしろ》
 口調とは逆に、見つめてくる目の色は静けさが宿っていた。
《せいぜい頑張ってくんな》
「あいよ。任せておけ」
 気軽に答えると、タイミングを計ったように真っ白い鳥が現われた。蜜子の伝言鳥である。
 見なくとも内容は知れている。この手の要請を断る必要はないからだ。
「よし、行こうぜ。この鳥が認証されれば〈森〉に入れる」
 と言いながらカリーファの肩に鳥を乗せ、アキラは二、三歩後ろに下がって首をかしげた。
「お前、全身白っぽいから伝言鳥が目立たないな。じゃあこっちだ」
 鵺の頭に飛び移らせて、「まあいいだろ」と頷いた。
 格子戸を開け放つと、中には御神体が鎮座していたはずの場所に黒い穴が開いている。〈森〉と人間界を繋ぐ通路だった。
 アキラは手をかざして、長い息を吐く。
 緑掛かった瞳を半眼の中に沈めて、掟通りの呪言を唱えた。
「〈森〉の神にも等しいエン・ゲノム=ガムシャナよ。白き鳥に率いられしものどもを、我が名において正式な“客”と認定する。聞き入れよ!」
 穴の外因部は、一度大きくたわんで輪郭をぼやけさせた。アキラの声が染み透っているかのように波打ち、徐々に静まってくる。
 完全に元どおりになるのを確認してから、アキラは鵺の体を軽く叩いた。
「よし、お前から入れ。……真ん中に白髪小僧、最後が俺」
「白髪じゃないってば!」
 アキラは笑いながら、先頭の鵺に合図をした。ゆっくりと歩いていく身体が黒い穴に吸い込まれて行き、「あ、待ってよ」と、カリーファも同じように消える。
 穴の外側に手を掛けようとすると、白すぎる顔が戻ってきた。
「言い忘れたけど……」
「なんだよ?」
「僕、きみと友達になれそうな気がする。だって意外といい人みたいだもの」
 カリーファはにっこり笑った。
「キマ鵺のあんな顔、初めて見たよ。どうもありがとう」
「礼を言われる筋合いはねえよ」
 ぺし、と音を立てて額をはたくと、無理遣り押しこくって穴に入れる。
「お前と話をすると、なんか調子狂うんだよな。頼むから少しおとなしくしてくれ」
「えっ、何? なんて言ったの? よく聞こえない」
「他人のペースに巻き込まれるのは嫌いだって言ったんだ」
 アキラは独り言のように言ってから、体重を乗せてカリーファの頭を穴の中に沈めた。
 ふっと軽くなり、穴の奥から重い者が落ちる音が響いてくる。アキラは笑おうか眉をひそめようかと迷う表情でその場に立ち尽くした。
「災厄、か」
 引っ掛かっている言葉を呟いた。カリーファのどこが“災厄”なのかがよく解らない。正体不明で自分の名すら言わないところは怪しいが、話をしてみれば飛び切り破天荒というわけでもなく、単に子供っぽいだけの少年だ。もしかすると、蜜子は鵺のことを言っていたのかもしれなかったが、アキラの直感は違うといっている。
 これから何かが起きるのかもしれない。……が、起こらないかもしれなかった。アキラは蜜子の能力について、動物の臨終以外の予言にはまるきり信を置いていなかったのだ。
 アキラは簡単に肩をすくめると、身軽に黒い穴へと飛び込んだ。今の段階では、まだ先のことを思い煩う必要はないと気がついたのだった。


第四章(2)に続く。



縦書きで読みたい方はこちらをどうぞ!

月夜ノ蝙蝠丸 名義です。
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縦書き(11)に続く。


かゆさ全開です。 ごめんなさいごめんなさい!
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