本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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(3)

「な、なに───?」
 アキラは咄嗟に手を伸ばして、カウンター越しに蜜子の頭を抱きかかえた。ペンダントライトが振り子のように揺れ、埃が大量に舞い落ちる。
 二階のアキラの自宅で、何かが激しくのたうち回り、床をひっかいているような音がしていた。
 続いて、ゆっくりと歩き回る気配がしてくる。
「誰かがいるわ、アキラ!」
「しっ。静かに」
 それは慎重な足取りの割りには、よろけて椅子を引っ繰り返したりした。泥棒の可能性が消える。
 どこか間抜けな物音が断続的に続き、ドアを開け閉めする音がして、足音がビルの横に張り出しているアルミ階段を下ってくる。
 アキラは厭な予感がした。
「蜜子、『異界からの訪問者に気をつけろ』って、どういう意味だ?」
 圧し殺した声に、蜜子はアキラの腕の中で埃にむせながら囁く。
「 “災厄”よ」
 店のドアが開き、ベルが小刻みに揺れた。
「は、あー……い」
 ひょっこり顔を覗かせたのは、真っ白い少年だった。髪の色は銀に近い白色、肌は漂白されたように白く、身にまとっている服も白かった。瞳の色だけが薄い茶色で、今は涙をこらえているように潤んでいる。
 腰を屈めて、よたよたと店の中へと入って来た。
「なんで逃げちゃうのさ? 僕、ちゃんと挨拶しようと思ったのに」
 少年は「いててて……」と呟きながら、頬を膨らませる。
「きみの気配を追ってここまで来るの大変だったんだから! きみってば空飛んじゃうしさ、変なところから家の中に入るから僕らまでそうせざるをえなくって! 少しはこっちの身にもなってよって言いたいね、僕は」
 アキラと蜜子が固まったまま黙っていると、
「あんなに狭いところからよく出入りできるねえ。お陰でこいつが入ったら少し壊れちゃったけど」
 ドアを大きく開け放して後ろを振り返る。
「お前も大変だったよねえ?」
「あそこは客が使う出入口じゃねえぞ。───じゃなくて!」
 蜜子を抱く手がわなわなと震えた。
「お前いったい誰だ? 何しに来た? それに、それはなんだよ!」
 少年の後ろから入ってきたものに指を突き付けて、怒鳴る。
「その訳の解んねえもん連れて、とっとと出ていけ!」
「やだな、もう。怒らないでよ」
 なぜかおかしそうに笑いながら、少年は「紹介するね」と傍らを手で示した。
 そこには小牛ほどの生き物が目を光らせてアキラを見詰めている。頭は獅子、前脚はワニ、後ろ足が象で胴体は猿らしい。たてがみが妙に蠢いていると思ったら、細い蛇が何十匹と垂れ下っている。
「こいつはキマイラとも鵺ともつかない生き物で、僕は『キマ鵺』って呼んでるんだ。どうぞよろしく」
「って、なに紹介してるんだよ!」
「紹介するね、って言ったじゃない」
「しなくともいい!」
「どうして怒るの? 変な人だな、きみって」
 息を切らせたアキラは、にこにこと笑い掛けてくる少年と不穏に牙を剥く生き物を見比べて、倒れ込みそうな脱力感を覚えた。
「もう放して」
 蜜子が不機嫌そうに胸を押し返す。
「耳元で怒鳴り散らされると迷惑なのよ」
 アキラが無言で腕を離すと、埃をかぶった洋服を見下ろして顔を顰めた。
「それで? お連れ様の名前は解ったけど、あなたは自己紹介しないのかしら?」
「あ、ごめんなさい。本当の名前は言えないけど、通り名は『カリーファ』だよ。手品師をしてます」
「そう……。私は蜜子、こっちの怒りん坊は紫堂アキラよ。よろしくね。───それで、あなたは何をしにきたの?」
「えーっとね、〈神話〉の世界にいたんだけど、このキマ鵺が暴れるから〈森〉に引き取ってもらおうと神々の会議で決まったんで、僕は使者として遣わされたの」
「〈神話〉? 準異世界ね。あなたはそこの住人?」
「ううん、本当は違うけど、それも言えないんだ。ちょっと遊びにいったら長居しちゃって、しばらくはお世話になってたかな」
「それで今度は〈森〉に来たというわけね。その生き物は制御できるの?」
「うん。口輪を嵌めたから大丈夫、温和しくなったよ」
「〈森〉が受け入れると思っているの?」
「一応、親書を貰ってきたから、王様に渡せばなんとかしてくれるって言われたんだけど」
 アキラは頭を抱えた。
「どうして俺抜きで話が進んでるんだよ……?」
「あら、いつもそうよ?」
 蜜子が冷たく言い放つ。
 睨み付けてやろうと顔を上げたアキラは、 手品師カリーファが『キマ鵺』と呼ぶ生き物と目が合った。
 その途端アキラの頭が激しく掻き回されたようになり、粗野な思念が鋭く切り込んでくる。
《どいつもこいつも、馬鹿面下げて……》
「な、なんだと!?」
 いきり立ったアキラを、蜜子は訝しげに振り返った。
「どうしたのよ、突然に」
「い、今この化けもんが───」
 言い掛けた傍から、不満そうな思念が割り込んでくる。
《化けもんだと? 俺のことは『高貴な魂』と呼べよ》
「ふざけんな! なんでお前みたいな合成生物を『高貴な魂』なんて呼ばなきゃいけねえんだよ!」
《じゃあ、『高潔な魂』って代えてもいいぜ》
「変わらねえじゃねえか!」
 蜜子が「うるさいわね」と割って入る。
「何をひとりで興奮しているのよ? あなた、ヒステリー起こしてるみたいよ」
「だって、こいつが……」
 言い掛けて、アキラは愕然とした。
「もしかして、お前には聞こえないのか? この、鵺だか腐肉の固まりだか、見分けがつかない奴の言ってること……」
「喋っているの? 私には全然聞こえないわ」
 首を振る蜜子とは反対に、カリーファは嬉しげに飛び跳ねた。
「凄いね! 僕以外には誰も解らなかったのに、やっぱりアキラちゃんはさすがー!」
「……アキラ、ちゃん?」
 別の意味で愕然としたアキラに、鵺は弾けるような笑いの発作を浴びせかけた。
《アキラちゃん、だってよ───》
 気のせいか目眩がした。
「あ、キマ鵺が今笑った! 楽しいんだね」
「何を言っているのかが解るの?」
「ううん、ぼんやりとしか繋がらないんだ。でも会話は出来るよ」
 鵺が蜜子の靴先に鼻を寄せて、匂いを嗅ぐ。
《うまそうだな。喰ってもいいか?》
「『とっても綺麗な人だ』って言ってるよ」
《女の肉は柔らかいから好きだぜ。あと酒がつけば言うことなし》
「『おいしいお酒に酔ったような気分です』だって」
《なあ、白いの。いつまでもだらだら喋っていねえでさ、早くおもしろいところに連れて行けよ》
「『〈森〉に行くのが楽しみだ』」
 カリーファは通訳していて、感じ入ったように頭を撫でてやる。
「そう、キマ鵺……。お前もやっぱり動物の仲間なんだね。もう少し待ってて」
《まだ待たせるのかよ? いい加減に飽きてきたぜ》
「秋はまだだよお。今は冬の終りだね」
 成り立っているとは思いたくない会話を聞いているうち、アキラは体中の力が抜けてその場にうずくまった。
「全然駄目じゃん、お前ら……」
 災厄とは、限りなく疲れることだと知った。

第四章(1)に続く。


なんだかイヤな汗が出てきました……
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