本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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第三章(1)


 再びの着替えを済ませてから喫茶店に戻ると、ドギーとミイ、蜜子が退屈そうに待っていた。
「首尾はどうだったの?」
 薄い微笑を浮かべて蜜子が訊いてくる。アキラはとたんに渋い表情に変わった。
「別に、いつも通りだ」
 突き放す口調で言って、カウンターの中に入る。
 蜜子のからかうような視線が癇に障り、体の内側には苛立ちが頭をもたげてくる。自分でも持て余すほど機嫌が悪くなりそうで、アキラは次第に不貞腐れた表情に変わっていった。
 手を洗ってから自分用のコーヒーを淹れると、
「……江森は?」
 唇を尖らしたまま訊く。
「月見を送って行ったよお」
 ドギーと“あっちむいてほい”をやりながら、ミイが答えた。
「あの格好じゃ街中を歩いて行けないからねえ。アキラ様がよく使う、体が見えなくなる術を掛けて連れてったよお」
「話は聞いてやったのか?」
「もちろんだよお。大変なことが起こってるってえ」
 思わず蜜子に問いかける目を向けると、硬質のアクセサリーに囲まれた美貌は曇りがちの表情で頷いた。
「どうに説明したらいいかしら……」
 巻き毛に指をからめて、困ったように微笑む。
「なんでも、兎族に生まれた仔が蛭子だったらしいのよ」
「蛭子……?」
 訝しげに言ってから、アキラは眉を顰める。
「日本神話に出てきたやつだな。確か、骨のない身体だったとか……兎の仔もそうなのか?」
「当たらずとも遠からず、という感じかしらね」
「何だよ。はっきり言え!」
 アキラの性急な口調に、蜜子は降参するようなため息をついた。
「身体の状態がよく判らないらしいのよ。頭も、手足もなくて─── あるのは丸い毛玉みたいな体だけで、触ると暖かいし生きているということははっきりしているけど、声を上げることもないからどう扱っていいか困惑しているそうよ。兎族の年配たちは何かの前触れかもしれないと言い出したらしいし、みんな不安でいてもたってもいられなくて……それで月見が来たというわけよ」
「年寄りってさあ、前触れとか説教とかが好きだよねえ。……でも今度ばっかりは俺も気持ちわかるかなあ」
 ミイは後出しじゃんけんで連勝するのに飽きたのか、カウンターに乗り出して話に加わった。
「だあってさ、月見とかの動物型が生まれてきているってだけで、今の統皇様は歪みがあるんだとか言われてるんだよお。なんでも統皇様の治世になってから、能力が偏っている者が生まれ出したんだってえ。そんな話聞いちゃうとさあ、この先どうなるんだろうとか思っちゃうよお」
「わたくしもまるきり同じ意見を言うのはわたくしの精神と誇りに瑕を付ける行為であると承知していますでございますが、まるきりからやや欠ける程度に同じ意見なのでございます」
 ドギーは、アキラに付けられた目の周りのあざを、なぜかもうひとつ増やした顔で頷いた。あまり深く知りたくないが、ミイが勢い余ったふりをして殴り付けたらしい。
「動物を守るための〈森〉に、動物を守るための妖魔が奇妙な姿形をしていたら動物を守る仕事が出来ないではないですか? でしたら妖魔ではないですし、妖魔ではない生き物は〈森〉に誕生できるわけがありませんし」
「おっ、めっずらしく解りやすく話せたじゃんかよお」
「わたくしは常にわたくしにとって最適で理に適った理路整然を地で行くような話し方なのでありまして、貴様にとやかくわいわい言われる筋合いでも知り合いでもないということを今この場で貴様に言わなければならないわたくしの苦労を知っての暴言でありますか? しからば言わせて頂きますが……」
 苛々とカウンターを指で弾いていたアキラは、
「うるっせえんだよ、お前等!」
 両手でふたりの頭を鷲掴みにした。
「話をずらすなっての! すぐに反省しないと、林檎みたいに握り潰す!」
 ふたりは、まじ?と言いたそうな目を見合わせ、
「ごめんなさい」
 声を揃えてうな垂れた。
「解ったようだな。じゃあ、ついでに訊きたいんだが」
 きつい目はそのままに、アキラはつい早口になる。
「〈森〉ではどうやって子供を作るんだ? 人間と同じか?」
「……」
 沈黙が走った。
 バイソンの群れが道を横切るぐらいの時間、誰もが口を開かなかった。その沈黙に決着を付けたのは、ドギーだった。
「ああ、愛の営みのことでございますか」
「あ、愛 ─── って、お前……」
 たじろいで後退りしたアキラを不思議そうに見て、
「雄と雌の生殖行動を交尾というのでございますよね? 人間の言葉にすれば愛の営みというので合っているとわたくしはわたくしの記憶から申し上げますですが、わたくしは何か違った考えを基に考え違いを口にしてしまいましたでしょうか。それとも人間の場合も交尾と言っていいのでしたでしょうかとわたくしはわたくしのアキラ様に申し上げます」
「いや、うん ─── その……」
 二の句が継げなくなり目の辺りを押さえると、ミイは楽しげに声を上げた。
「あー、アキラ様、もしかして照れてるう?」
「そんなんじゃねえよ。言い方の問題だ」
「でも顔が赤いよお!」
「はて、面妖な」
 ドギーが大真面目に呟いた。
「ではわたくしはわたくしなりに交尾と言っていいということにしていますが、しかしながらわたくしが言った愛の営みや交尾の何のどこがアキラ様の照れて面映ゆい心を触発して顔面を紅潮させたのか……」
「案外と可愛いとこもあるんだねえ。短気で乱暴なだけかと思ってたけどお」
「速急に解決しなければならないのは交尾という言葉の使い方なのか、交尾という生殖行動そのものなのかが最重要にして難解な問題なのでして───」
 不協和音を奏でているふたりは、突然顔面に握りこぶしをめりこませて、後ろに倒れ込んだ。
 我慢の限界に達したアキラが、無言で殴り付けたのだった。
「……ったく、話が全然進まねえじゃねえか」
 どた、と椅子ごと床に倒れたふたりは完全に失神しているらしい。首を伸ばして確認すると、仲良く白目を剥いていた。
「あなたって本当に乱暴な子ねえ。一日に何回気絶させたら気が済むの」
 呆れた口調の蜜子を振り向くと、相変わらず薄く微笑んでいた。
「お前もぶん殴られてえかよ。話を戻すつもりがないんだったら女でも容赦しねえぞ」
「あら恐い」
 翳ることのない美貌はアキラの恫喝をさらりとかわす。
「……で、話ってなんだったかしら」
「だから、愛 ─── じゃなくて、交……」
 言い掛けて、アキラは自分の頬を叩く。
「こう、こ ─── 子供の話だ」
 今度こそ本当に赤面してしまい、それを見て蜜子は高らかに笑った。


第三章(2)に続く。



縦書きで読みたい方は、こちらをどうぞ!

月夜ノ蝙蝠丸 名義です。
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縦書き(9)に続く。


ああ……超個人的にですが、ものすごく懐かしい箇所です……

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