本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。

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【あらすじ】
 動物の死後の世界─── ‹森› ─── を守護する妖魔 ・紫堂アキラは、人間界で喫茶店を営みながら仲間たちと暮らしている。
 ある日、‹森›の住人である兎族の月見が泣きながら店に飛び込んできた。
 なにやら大変なことが起こっているのだという……

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(3)

〈森〉は動物の為の世界───繰り返す輪廻の中継地点、または楽園。
 その形状を空から見下ろすと、黒いブロッコリーが繁殖しているようにも見える。密集した樹々はほとんどが黒い幹に黒い葉を繁らせ、絡み合って天蓋を作り上げていた。
 ほぼ中央に統率者の屋敷がそびえ、周囲に妖魔たちの家が並んでいる。村、と簡単に呼ばれている集落は、共同体の必要もないがただ何となく集まっているだけ、というぞんざいさが漂っていた。もっとも、色々な属性を持った妖魔たちなので統一感がなくて当たり前であるが、それぞれが適度な距離感を持って平和に暮らしている。
 人間界のバランスそのままに、犬や猫の一族は大家族を構えている。草食、肉食獣たちはやや少なく、爬虫類と絶滅危惧種は限界に近く少ない。その中では、兎族は安定した数を保っていた。
「この間、仔が産まれるという報せが来たんです」
 感情がぶり返したのか、月見は顔の側面に付いた目から大粒の涙をこぼした。毛皮は水を弾くので、その涙はダウンライトの灯りを受けて七色に輝き、宝石のように美しい。
「あーあ、洟垂らしちゃってえ。……んもう、汚いなあ」
 ミイの突っ込みさえなければ、の話だが。
 アキラは適当にティッシュを手渡すと、
「落ち着いて……ほら、とりあえずケーキでも食えよ」
 問答無用で三人分並べた。ドギーとミイは突然無口になり、月見はしゃくり上げながらも手掴みでケーキを丸呑みする。
 アキラは感心したような目を向けた。
「いい喰いっぷりだ。どうだ、うまいか?」
「まずいです」
 あっさりと答えて、毛むくじゃらの手を舐める。
「生地の焼き加減が中途半端ですね。さくさく、またはしっとりがベストでしょう。それにパウダーが多すぎます。点数を付けるとしたら56点」
「……あ、そう」
 気の抜けた返事をして、煙草に火を点けた。ゆっくりと紫色の煙を吐いて、幾分厳しい表情でドギーとミイを見つめる。
 その何気ない仕草に反応し、すばやく行動を起こしたのはドギーだった。
 目にも留まらない速さでミイを羽交い締めにして、口元を塞いだのだ。
「アキラ様、このばかばかうんこ猫を捕らえましたでございます!  こいつは日頃からねちっこい喋り方でわたくしの脳を上から下までかき回し、引き摺り出すと共に地べたに叩きつけて踏み躙る嫌らしい奴でして」
「へえ。……それで?」
「どうしようもない役立たず猫を生贄に捧げますので苛立ちが苛々したときにはどうぞ容赦なく憂さを晴らす用途にお使いくださいませ! アキラ様のほんの小さな精神上の負荷が後でとんでもない恐ろしい忌々しい出来事へと繋がってゆくのは必然! であればわたくしは今この場でこのばかばかうんこ猫を犠牲にして未来の芽を摘み取ってゆかねばならないのでございます! ですからどうかわたくしは今までどおりわたくしのアキラ様の一番大事な弟ということに!」
「むむう、むがむがー!」
 ようやく事態を把握したミイがもがき、無骨な手がそれをしっかりと押さえつける。
 アキラは暗い目をしてカウンターから出てきた。
「なるほどな。そんなに俺が好きか」
「もちろんでございます!」
 ドギーが誇らしげに頷くと、アキラはふたり纏めて抱え上げ、
「───だったら一蓮托生、って事で」
「どどど、どうしてでございますか!」
 叫びを無視してリノリウムの床に投げ付けた。もちろん狭い店のことなので大振りではないが、びたん、と音がして、犬と猫は今度こそ動かなくなる。
「あのー……」
 月見が気弱そうな声で言った。
「あたしの話は、どうなったんでしょうか?」
「おう。今行く」
 さっぱりした顔でアキラが返事をすると、水を差すようにドアベルが鳴った。
「やっぱりまだ出掛けていなかったのね?」
 優雅にドアを開けて、艶やかに手入れされた巻き毛が入ってきた。ベルの余韻も、どこか遠慮がちに響いて消える。
「蜜子? 何しに来やがった」
「『何しに』ではないわよ。あなたが───」
 と、言い掛けて月見に気が付く。
「あら? どうしたの、こんなところで」
「『こんなところ』で悪かったな」
 半眼のアキラが呟く。
 それを完璧に無視して、
「何かあったの? 兎族、月見」
 極限まで冷たくした目で蜜子は詰め寄った。責める口調に、月見は耳を垂らしておどおどと顔を伏せる。
「人間界に出てくることは、四鬼獣様に許しを得ているんでしょうね?」
「あの、あたし……」
 震える声で呟いて、アキラに縋る目を向けた。毛で覆われた手に肉球は見えないが、恐らく汗ばんでいるに違いない。
「蜜子、そんなに恐い顔しなくても」
 手を振って取り成すように言うと、
「あなたは黙ってて頂戴」
 にべのない言い方に、アキラはむっと眉を寄せた。
「お前なあ、ひとが穏便に事を運ぼうと努力してんのに、その言い方はねえだろ? 少しは耳を傾けるとか、自分が悪かったって泣いて謝るとか……せめて化粧を落として素顔で勝負するとかしてみろってんだ」
「意味不明ね。とにかく無駄口しか叩けない子に口を挟んでほしくないわ」
「無駄口だあ? お前は今、滅びの言葉を口にしたぞ?」
「あら、違ったかしら。だったら、関係ないことを喋りまくる二束三文の口、とでも言い直してあげましょうか?」
「なんだと? おとなしくしてりゃ付け上がりやがって!」
 そこに月見が大粒の涙をこぼしながら割りこんできた。
「あの、喧嘩しないでください。あたしが悪かったんです」
「勝手に謝るなよ! 俺はな、そういうのが大嫌いなんだ!」
 アキラは月見を振り返るなり怒鳴り付ける。
「文句言うならともかく、謝るたあどういう了見してんだよ?」
「あのあの、すいません」
「こら! 謝るなって言ってるだろ!」
「ちょっと待ちなさいよ」
 華奢な細い指が、アキラの肩を苛立たしそうに掴んだ。
「どうして彼女に怒るのよ? 全くあなたみたいな癇癪持ち、見たことないわ」
「お前が話をややこしくしたんだろうが! ああ、もう……訳が解んねえよ!」
 アキラは勢い良く床を踏み鳴らす───はずだったが、犬と猫が折り重なって倒れていたため、
「ぎゃん!」
 魂消る悲鳴が、尾を引いて響いた。
 そこに、ドアベルが鳴った。
 首を揉みながら青白い顔で現われたのは、アキラの人間界での後見人、江森だった。
 ため息を吐きながらケーキの後味が残る口を厭そうに蠢かし、やや投げ遣りな態度で顔を上げる。
 狭い店内に並んでいる顔を眺め、その目が驚きに見開かれた。
「これは、皆さん……」
 次の言葉が出せないでいる。
 江森は苦笑いし、後退りして、
「では、ご機嫌よう───」
 踵を返した。
「ちょっと待てーい!」
 その場にいた全員が、声を上げた。

第二章(4)に続く。




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縦書き(6)に続く。




話が全然進まねえゾ!と思った方、本当にすいません……


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