本の話や宇宙の謎、猫の神秘、自作小説など、目についたものをなんでも盛り込むブログ。
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             『 昼ビール


                      飲んだら ちょっと


                           昼寝しよ♪ 』





今日は何もかも全部休みっ……!


出演 : 我が家のぬいぐるみリーダー、わんわんちゃん。

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第五章(7)



 石畳には、斜めに差し込んでくる陽が樹の陰影を描いて、ゼブラゾーンのような模様を刻んでいる。アキラはひと気がないのを確かめながら、慎重に歩いていった。
 時々物思いに沈み込むせいで、歩みが遅くなる。気が急いているはずなのに、足を前に出すことをためらっていた。
 大通りをひたひたと満たす夕方の気配は、中央の広場だけが一際濃い。黒光りする大岩が、闇を先駆けているように見えるのだ。
 巨大な岩を見上げながらも、アキラは迷っていた。
 こうしている今も、蛭子の身体は刻一刻と衰弱に向かっているのだ。足を止めている場合ではない。……解ってはいるのだが、一歩が踏み出せないでいる。
 緑掛かった目を隠すように、両手で顔を覆って歯を食いしばった。
 手には徐々に冷たくなってゆく蛭子の感触が残っている。それが昼間、最期を看取ってやった猪の冷たさと重なってゆく。
「駄目だ……」
 うめき声が洩れた。
「そんなことさせない。俺はあいつを助けたい……しかし───」
 銅版で刷られた肖像画が脳裡に浮かぶ。色あせて暗い印象を受ける、ガムシャナの姿だった。
 アキラはいつしか、決然と目を上げていた。
 唇を噛んで、黒光りする大岩をにらみ付ける。心中の振り子が揺れすぎて、振り切れてしまったかのように。
 そのとき、後頭部の髪が引っ張られるような感覚がして振り返った。知っている気配がこちらに来るのを感じたのだ。
 身体を見えなくする術が効いているのを確かめてから、アキラは息を潜めて大岩に寄りかかった。
 そのとき、通りの向こうから鹿族の子供が走ってくるのが見えた。
「お急ぎを……!」
 切羽詰まった声を上げて、後ろを仰ぐ。
「みんな待っています。統皇様」
「解っている……」
 穏やかな声と共に、やや早足になった統皇の姿が現われた。目から放出する黄金色の光量を、最小限に絞り込んでいる。
 アキラが気配を殺していると、統皇の視線は何事もなく素通りしていった。
 そして気が付いてしまったという顔で、アキラの姿を探り当てる。
「先に行っていなさい」
 鹿族の子供に手を振った。
「でも───」
「大丈夫だ。先程からあの仔の気配は安定している。……すぐに行くから」
 服の裾を掴んで逡巡していた子供は、統皇の威厳ある口調に深々と頭を下げた。
「お願いします。なるべく早く会ってあげてください」
 焦りで足をもつれさせ、転びそうになりながら駈けていく。
 統皇はその姿が見えなくなるまで見送ってから、アキラを真っすぐに見詰めた。
「術を使うのが上手くなったな。私でも一瞬見えなかった」
「一瞬、ねえ……。じゃあ、まだまだってとこだな」
 舌打ちして、術を解いた。拡散していた光を元に戻した反動で、視界が歪む。
 顕わになった顔に苛立ちが滲むのを、隠すことも出来ない。
「遅いんだよ。何やってたんだ」
「済まない。中庭に辿り着いた魂が切れなかったのでな、なかなか出られなかった」
 心から申し訳なく思っているのか、うな垂れる。
 アキラは更に言い募ろうとしたが、舌打ちをしてそっぽ向いた。
「応急処置はしておいたぜ。後は月影に訊いてくれ」
「解った。行くのか?」
「仕方ねえだろ。俺はあいつをこの手に抱いちまった。やれることは何でもやるさ」
 統皇は口元を綻ばせ、
「そうか……」
 と呟いた。
 意外にもしてやったりという笑みではなく、肩の荷を降ろしたような表情だった。
「ガムシャナに会ったら言いなさい。『〈森〉の風は止むことなく吹いている』……と」
「はあ? なんの意味があるんだよ」
「彼が喜ぶのだ。それだけだ」
 訳知り顔で首肯くのを、アキラは呆れて見詰め、背を向けた。
「言わねえよ。気に入るようなことは一言も言わない。……俺は『後継者』になりに行くんじゃなくて、訊きたい事を訊きに行くだけだ。勘違いするな」
「晃夜」
 統皇の言葉に、切れ長のアキラの目に怒りが燃え上がった。
「その名で呼ぶんじゃねえ! 何度言ったら解るんだよ!」
「しかし……」
「うるさい」
 アキラは大岩に手を当てた。
「これ以上の譲歩は出来ない。俺に何かを求めるな」
 統皇の寂しげな気配が背中に感じられて、振り切るように目を閉じた。
「ガムシャナ! 俺を中に入れろ……!」
 叫んだ途端、手に触れていた大岩が柔らかく変質する。焦れったくなって肩から押し入ると、弾力がするりと消えた。
 アキラは地下への入り口、大岩の中に入っていった。


第六章(1)に続く。



第五章長すぎ……
第五章(6)


「後継者様」
 月影が声をひそめた。
「先程の話、本当ですか」
「そうだ。鵺が感じたらしい。俺の血を入れれば、暫らくは保つと」
「して、この生き物は……?」
 すでに三百年近く生きている老人は、困惑した顔で鵺を見詰めた。蛭子同様、前例がないらしい。
 言いよどんでから、
「さっき、統皇に会わせた。妖魔だと言われたらしい」
「なんと! それは……それは」
 返事に困っている。
《なんか引っ掛かる反応だな》
 拗ねた目で見上げる鵺を、アキラは軽く叩いていなした。
「───で、これからなんだが」
 月影は、表情を強張らせた。
「一時的なのでしたな? あなた様の血によって、回復しているのは」
 繰り返して言われると気分が重くなる。
「あと、どのくらい保つかは解らない。急がないと」
「しかし、どうすれば」
 消沈しそうな雰囲気に、何やら楽しげな笑い声が流れてきた。カリーファが、ハンカチをライターであぶって「あら不思議、燃えないよー」などと言っている。アキラはこめかみの辺りがひくつくのを感じた。
「……俺に心当たりがある」
「心当たり、というのは?」
「もしかして手がかりが掴めるかもしれない。約束はできないが」
 アキラは慎重に言葉を選んだ。
「期待されると困る。何もしないよりはまし、ってぐらいだな」
「一縷の望みがあるならば、是非にもお願いします。我々はこの仔を助けたい」
「だったら頼みがある。このことは絶対に内密にしてくれ。俺が何をしようとしているのかを訊いてはいけない。もし仮にうまくいっても、どこから情報を仕入れたのかを詮索するのも駄目だ」
 月影は首を傾げたが、すぐに首肯いた。
「解りました」
「そうと決まれば、さっそく……」
 蛭子にあてていた手を、そっと持ち上げてみる。血が乾き始めていて剥がし難いが、薄桃色の肉が健康そうに色付き、暫しの安心感を与えてくれた。
「───薬を」
 念のため蛭子の傷口に軟膏をすり込んでおく。癒しの術が効かないのであれば、薬に頼るしかなかった。
 包帯を巻いてやり、痛々しい様子になった蛭子を月影の腕に返す。
「あなた様も傷の手当てを……」
「俺はいい。こんなのすぐに治る」
 自分の手をちらと見て、アキラは顔をしかめた。すでに薄皮が張り始めている。
「脈に気を付けていてくれ。容体が悪くなるようだったら、今度は統皇に頼むんだな」
「はい。あの」
 長老は口篭もってから、深々と頭を下げた。
「ありがとう、ございます」
「礼には及ばない。どうやら俺の役目だったみたいだからな」
「いえ、あの……」
 月影は痩せた肩をすぼめる。
「あなた様がこれほどまでに、我々のことを気に掛けてくださっているとは今まで知りませんでした。人間界に行ったきり、滅多にお戻りにならないので、……その」
「誤解してたと言いたいのか? 俺は〈森〉を嫌ってると?」
「……」
 答えなかったが、皺に埋もれた目には哀しげな色が宿っている。それが何を意味しているのかは解らなかった。
「点数を付けるとしたら、56点……」
「えっ?」
「半分当たり、ってことだよ。俺は俺なりのルールで動いている。でも残った半分は、普通の妖魔の倍は〈森〉を気に入っている」
 言い捨てるようにして、立ち上がった。唇に指を付けて、いつもの術を呼び起こす。
「一言で言えば、フクザツ……かな」
「後継者様?」
「もう行く。こっちを見るな」
 緑掛かった目をゆっくりと閉じ、慣れた仕草で姿を見えなくする術を掛けた。光を屈折させるだけだが、身体を形作る成分が分解して、周囲の風景に溶け込んでしまったように見えるはずだ。
 不意に、痛みをこらえるような呟きがアキラの耳を刺した。
「好む好まざるに関わらず、あなた様は後継者なのです。その事に、気付いて下さい」


第五章(7)に続く。

終わりは、まだ……なのか……
第五章(5)



 赤黒い血がゆっくりとあふれ出し、地面に滴り落ちる。
 血の匂いが広がり、後ろに控えていた月見が後退った。
「なんて事をするのです! アキラ様」
「うるせえな。早く薬を持って来いよ」
 神経が泡立つような痛みに顔をしかめ、せっかちに首を巡らして見知った顔を見つける。
「……猿、お前のところにあるだろ?」
「は、はい!」
 猿族の男が慌てて立ち上がった。代々、薬草を扱うのに長けた一族である。
 ざわめく周囲を無視して、アキラは蛭子の身体にはさみをあてた。
「後生です、お止めください!」
 縋り付いてくる月影の体を、アキラは邪険に振り払う。
「触るな!」
 怒りに目を釣り上げて、怒鳴った。
「手元が狂うじゃねえか! 俺を信じるんだろ?」
「しかし……」
「爺さん」
 アキラのきつい顔が、不意に和らいだ。そうすると気弱で繊細な表情になる。
「そんなに俺って、頼りないか? 任せられない、かな?」
「……」
 唾を飲み込んだ月影が、その場にへたりこむ。
 アキラはこっそりと笑った。年寄りは勝手に色々なことを慮ってくれるから扱いやすい。
 何をするつもりなのかと虎族の子供が覗き込み、村の者たちも背中に圧迫感を感じるほど詰め寄ってきていた。
「頼むぜ」
 誰にでもなく呟いて、アキラは蛭子の毛皮を、そっと切り付けた。
「……!」
 鮮血が飛び散る。すかさず傷口に自分の傷を重ねあわせると、柔らかい脈動が伝わってきた。蛭子も、心臓そのものの音を聴いているのか身じろぎをする。
「俺の血が流れてゆく。───ほら、身体が暖かくなってきた」
 どこか得意そうに言って、空いてるほうの手で月影の手首を掴む。無理遣り引き寄せると、蛭子の毛皮にあてた。
「おお!」
 信じられない顔で、老人は弾んだ声を上げる。
「脈が感じられる! 先程は消えそうであったのが、今はしっかりと力強く……」
「涙にむせるのはまだ早いぜ。これは一時的なものだ」
 老人の喜色にあふれた顔に、アキラは慌てて言った。
「実は、あいつに聞いたんだが───」
 鵺を振り返って、真剣な面持ちで告げる。
「暫らく保つ程度だ。決定打じゃない」
 月影を始め、村人たちの視線が注がれたのを感じて、
「あ、こんにちは」
 カリーファはとぼけた挨拶をした。
「なんだか大変なところに来ちゃって、ちょっと困ってます。あの、皆さんも色々と心配な事があるみたいですけど、早く解決するといいですね」
「なに社交辞令述べてんだよ。こっち来い」
 アキラに手招きされて、カリーファと鵺は呑気に近寄った。
 不審そうな顔をした狐族の女が、
「ボク、どこの子?」
 と屈み込む。
「えーっと、それは言えないんだ。ごめんなさい」
 にっこり笑って、白い頭をぺこりと下げる。
「本名も言えないけど、とりあえず『カリーファ』と呼んでください。手品師をやってます。それと、こいつはキマ鵺。よろしく」
 蜜子にしたのと同じ自己紹介をして、薄茶色の目を微笑ませた。周囲の戸惑いが深くなる。
「怪しい奴じゃない。統皇の客だ」
 アキラが言うと、やっと合点がいったのか人垣が割れて、通してくれた。
 そこへ、猿族の男が、薬袋を持って駆けてきた。
「遅くなりました! アキラ様」
 礼を言って受け取ると、ふと思いついたようにカリーファの白い頭を小突く。
「お前、手品師なんだろ? だったら披露してやってくれないか。みんな疲れてるだろうから、息抜きで」
 アキラは目配せしながら言った。
 それに気が付いたのか、
「うん! じゃあ向こうの広いところでやるよ」
 と、少し離れた井戸へと歩いてゆく。歓声を上げた子供がぞろぞろと附いて行き、つられた大人も遠巻きにしてカリーファの姿を見守った。
 体よく人払い出来たお陰で、アキラと鵺、月影は緊張した顔を付き合わせた。

第五章(6)に続く。



うああ……うあああああ……
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 『 飼い主の


     カメラの腕前


         いい加減怒るよ? ゴルァ! 』 
                                   ゴメン、川柳になってない。




お……大きなお世話だいっ!



出演 : 15歳お年寄り猫、カブ。

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        『 頼むから


             「 その腹、メタボ…… 」 って 


                     言わないで…… 』




そのお腹はメタボ以外の何ものでも……あ、ううん、なんでもない。



出演 : 15歳のお年寄り猫、カブ。



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          ふさふさ

                馬鹿な飼い主

                           萌え殺す!』



猫のふさふさは戦略なのです。皆さん騙されていはいけませんっ!


出演 : 我が家の15歳お年寄り猫、カブ。

新カテゴリ 『 ねこ川柳 』 始めました。





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      『 寝ていれば

                そのうち出てくる

                            晩ごはん 』




猫になりたいものです……


出演 : 我が家の15歳お年寄り猫、カブ。

第五章(4)


 兎族の月見である。
 コートやマフラーを脱ぎ捨てて、小さなチョッキをまとっただけの姿になっていた。
「来てくださったのですね、有り難いことです」
 駆け寄ってきて両手を握ってくる。その声は、涙で押し潰されそうになっていた。
 うずくまっていた妖魔たちの何人かが、アキラに気が付いて会釈をした。それに手を振って応えると、月見の背中を撫でながら、優しい声で訊いた。
「どうしたんだ。仔に何かあったのか?」
「それは……」
 月見は息を詰まらせる。
「会ってやって下さいませんか? あたしの口からは、とても」
 細長い耳を力なく垂らして、建物の奥へと促した。扉を開け放った家の中には兎族の妖魔がひしめいている。その真ん中に長老の月影が蹲っていた。
 人間型の月影はひどく年老いた老人であるが、これほどまでに皺が深く刻まれた顔は見たことがなかった。アキラは場所を空けてくれる村の者に声を掛けながら進んだ。
「後継者様」
 月影の重い声が胸に突き刺さる。
「心音が弱っています。体温も下がってきておりますし、このままだと時間の問題かと」
 老人の表情は苦渋に満ちていた。
「蛭子であろうとも我々の仲間。『死』なしとうはございません。しかし───」
「水鏡は? 癒しの泉なら」
「まだ幼すぎて、駄目でした」
「気を注いだのか?」
「はい。しかし受け付けません」
「統皇には……」
 アキラは狼狽して、統皇の屋敷を振り返った。そうそう都合良く現われてくれるはずもないが、身体が勝手に期待したのだ。
 月影はため息を吐いて、
「たった今、使いを出しました。あの方なら見捨てなさるはずはないと思いますが、我々の力では解決は望めないだろうと……」
「そう言ったのか? 統皇が?」
「この仔を授かったときに、仰っていました。ですから───」
 腕に抱いているものを差し出した。
「どうか、抱いてやって下さいませんか。あなた様の温もりを感じさせてやりたいのです。せめてもの慰めに」
 アキラは真っ白い毛玉を受け取った。
 蜜子の言葉どおりに、頭も手足もない。ただ丸い身体であるが、兎族らしい銀の毛は柔らかかった。
「なんてことだ。本当に打つ手はないのかよ?」
 呟きに、答えるものはいない。押し黙ったまま辛そうに目を伏せている。
《───血だ》
 突然の思念に、アキラは振り向いた。
 村の者が作っている輪から離れた向こうに、鵺が獅子の目を光らせてアキラを見詰めていた。
《血を分けてやれ。暫らくは保つだろう》
「なぜ解る?」
《説明できない。ふと浮かんだ》
 戸惑う目に変わって、鵺は俯いた。
《お前の血は強い。だから───》
 アキラは自分が抱いている蛭子を見て、月影に視線を移し、それから鵺へと戻った。はたして本当に有効なのか、信じてもいいのかが測れない。
 妖魔たちの前で、蛭子に血を分け与える。それをするのは容易いことだ。しかし、もし失敗すれば、妖魔たちの動揺は広がるばかりだ。最悪の場合、収拾が付かなくなる。
 迷っているアキラを見透かすように、鵺の目が真っすぐ突き刺さってくる。それを受けて、アキラの胸は痛んだ。
 鵺を信じることを迷っている自分は何者なのか。
 少なくとも今この場では、どちらの側でいることを求められているのか。そして、自分はどうしたいのか。
 数多の妖魔がアキラを見つめている。鵺も、穏やかになった目でこちらを見ていた。
「そうか、そうだよな」
 月影の不思議そうな視線に、アキラは不敵に笑った。
「爺さん、あんたは俺を信じるだろ?」
「……え? ええ」
 戸惑いを隠し切れない返事を聞いて、壁に架けてある花切りばさみを取り上げる。
「ここがどこだか忘れてたぜ。要は信じればいいんだ」
「何を───」
「血止めの薬を用意してくれ。それと包帯」
「後継者様……!」
 はさみを開いたアキラに、月影が止めようとして手を伸ばす。それを振り払って、刃先を自分の掌に突き刺した。


第五章(5)に続く。


どうやら長すぎたようだな……ふっ(泣)
第五章(3)


“後継者”の定義は、『黄金色の力を受け継ぐ者』である。これは〈森〉のシステムが整ったときに出来たらしい。つまり、黄金色を持つ者が統率者として即位し、それに続く者もまた同じ力を有して生まれてくることを指す。
 統率者を遡ってゆけば、その源はガムシャナに繋がっていた。
〈森〉を確固とした異世界にするために、ガムシャナは『死』ぬことを拒否して地下に潜ったと言われている。平和と安定を願う核であり〈森〉の意志でもあるのだ。
 従って、今現在でも命ある存在である。
 それは真実だった。なぜなら、後継者は一度、ガムシャナに会わなければならないからだ。理由は明らかにされていないが、面会すると『正式な後継者』として認められることになる。蝙蝠の一族のなかでも、このことを知っているのは常に統率者と後継者だけであり、最大級の極秘事項だった。
 アキラが人間界に飛び出したきっかけは、これだった。ガムシャナの住まう地下に、降りてゆくことを促されたのだ。そんなことをすれば後戻りできなくなる、統率者になるのだけは真っ平御免と思っていただけに、反発は必然だった。
 結局は統皇が折れる形になったが、保留にしただけで諦めたわけではなかったらしい。実質的には、アキラが後継者である事に変わりはないのだ。
『地下に行きなさい』という一文は、〈森〉にとって神にも等しい存在が、蛭子及び鵺の問題を解決する糸口になると示唆し、ついでに念願の『正式な後継者』にさせることを意味していた。
「したたかな中年め! くそったれが!」
 口の中で罵りながら、アキラはカリーファと鵺を引き連れて建物を出る。
 すると、振り返ったカリーファが声を上げた。
「あれえ? ここって、随分大きいお屋敷だったんだね」
「……ああ? これは目くらましだ。実質は2LDK」
 アキラはひねた口ぶりで言い捨てる。
「というのは嘘だが、中庭だの庭園その他を含んでるからな。まあ、公民館というか……村の妖魔が集まる場所だ。正式名称は『統率者の公邸』。誰もそんな名で呼んじゃいねえけどな」
「へえー、面白いね」
「どこがだよ。別に、こんなもんだろ」
 恨みを篭めた視線を投げ掛けて、肩を聳やかした。
〈森〉の村は、屋敷の前庭を通り抜けるとすぐに見えてきた。こじんまりした家が軒を連ねて、花壇の美しさを競っている。中央に広場があって、ガムシャナが人間界から運んだと言われている大岩が、黒光りして辺りを圧していた。
 上空から見ると三本の道が交差した脇に家々が並び、丁度雪の結晶のような形をしていた。裏通りには井戸と洗濯場がひしめき、機織りの音が響いている。規模は変わろうとも生活自体はガムシャナの頃と変わっていない。
「わー、村だあ」
 カリーファは嬉しそうに声を上げた。
「ほんとに村だねえ」
 どこに感動しているのかが解らなかったので、
「ああ、村だ」
 簡単に返事をして、辺りを見回した。
「それにしても、誰もいねえな……」
 普段と違って、ひと気がないのが気になった。石畳もひっそりとして午後の陽を寂しく照り返している。
「まさか……」
 アキラは急に足早になって、増築を重ねた大きな家に向かった。カリーファと鵺を置き去りにするような勢いだった。
「待ってよお!」
 追いすがる小柄な身体は、急停止したアキラの背中にぶつかって尻餅をつく。
「あいたたた、……んもう、アキラちゃんったら───」
 文句を言いかけて、はっと口をつぐんだ。
 そこには、村中の者が集まって跪いていた。瞑目し、一心に祈りの言葉を呟いている。
 と、その内のひとりが、顔を上げて悲痛に叫んだ。
「アキラ様……!」


第五章(4)に続く。



あわあわあわ……

第五章(2)


「それと言付け。アキラちゃんが書いてくれた要望書を読んで、意に沿うようにすると言ってたよ」
 アキラは鵺から聞いた事情を詳しく文書にして、通り掛かった者に届けさせた。約束した通りに、〈神話〉へ厳重な抗議とともに、鵺の名誉のために心からの謝罪を要求するというものであった。そして、この件を正史に刻むように付け加えた。
「鵺のこと、何か言ってたか?」
「うん。なんでもキマ鵺ってさ、妖魔らしいんだ」
 さらりと言われたので、アキラは「ふうん……」と聞き流すところだった。
 一瞬凝固した姿勢になり、激しく咳き込む。
「はあ? あいつが、妖魔?」
「そうみたいだよ。はっきりとは言ってくれなかったけど、何かがおかしいって首かしげてた。酷く分裂した感じがするって。でも、変なことを言ってたなあ……。『閉じたものを開ける鍵───』、とかなんとか」
 アキラは突然、カリーファの肩を掴んだ。
「『閉じたものを開ける鍵』?」
「そうだけど……痛いよ」
 小柄な身体がもがいているのに気が付いて、アキラは手を離した。
「悪いな。ちょっと……」
「どうしたの?」
「いや───さっき、どれかの本に書いてあったような気がして」
 考えながら、本棚の壁に目を這わせた。
 蛭子について参考になるかと思って蔵書室に籠もったが、適当に流し読みしていた中に似た印象を受ける一文を見かけのだ。ただ、それがどの本に載っていたのかが思い出せない。
 アキラは塔の内部に詰め込まれた本を、厳しい表情で眺めて、肩を落とした。
 もう歴史書を手に取ることさえ食傷気味である。
 ドギーとミイを呼び付けて手伝わせようかとも思ったが、その案は瞬時に脳裡から追い払った。あのふたりは以前に統皇が大事にしていた茶器の整理を頼まれ、半時間も経たないうちに殴り合いの喧嘩を始めて、コレクションを全滅させた前科がある。
 統皇は温和な性格なので、茫然とした末にため息を吐いただけで赦したが、四鬼獣はかんかんに怒って口が開かなくなる術を掛けた。口喧嘩出来ないように、と。
 そんな経緯があるので、屋敷には呼びたくない。自分で探すのもきつい、となれば───
「統皇に訊けば早いんだろうな、多分」
 謎の言葉にしろ、蔵書の中で見かけた一文にしろ、直接訊けばいいのは解っている。蔵書の管理をしているのは統皇であり、ほとんどの書に目を通したと言われているのだ。
 しかし、それは最後の手段にしたかった。
 アキラの胸に、先ほどから感じている痛みが強くなってくる。アキラが嫌悪感をあらわにした途端、傷付いた目をした統皇───
「まだ暫らくは会いたくないし、会えねえな……」
 ため息混じりの言葉に、カリーファは目を見開いた。
「どうしてさ! 統皇さんに訊けば判るかも知れないんでしょ? いいひとだし、きっと教えてくれるよ!」
「そりゃあそうだろうな。しかし、俺には俺の事情があるんだよ」
「それってどんな?」
「簡単に言えることじゃねえよ」
 アキラは軽く肩をすくめ、カリーファの背中を思い切り叩く。
「さあ、もう話は終りだ」
「勝手に終りにしないでよ。僕には言ってくれないの?」
 背中をさすりながら、カリーファは薄茶色の目を翳らせる。アキラはそれを見ないようにした。
「俺は今から村に行かなきゃならねえんだ。お前はどうする?」
「村、があるの?」
「そうだ。妖魔がいっぱいいるぞ」
「僕も行っていいの? キマ鵺も?」
「構わないぜ。邪魔しなければな」
 アキラがからかうように顔を覗き込むと、少年の表情は簡単に晴れた。
「〈森〉の村、見たい! 早く行こうよ、ねえアキラちゃん!」
 と飛び跳ねる。その喜びように、アキラは早くも後悔し始めていた。
 兎族で起きている蛭子の問題は、カリーファの能天気な性格が割り込んできたら更に訳が解らなくなりそうだった。
 しかも蜜子の言った「災厄」の一言が、頭の片隅に居座っていてしつこいぐらいにちらつく。
 睨むように見つめていると、カリーファはふとのん気な顔を引き締めた。
「そうそう、これ受け取ってよ。統皇さんから直々に頼まれたんだから、アキラちゃんに手渡す義務があるんだ」
 ずっと手に持っていた手紙を渡した。アキラが受け取る様子を見せないので、渡しそびれていたらしい。
「必ず読むように、と言ってたよ」
「あん? 自作のポエムでも書いてあるんじゃねえだろうな」
「……ポエムって、何?」
 首を傾げるカリーファに拳骨を食らわせて、封を破る。
 中には、たった一行しか書いていなかった。
「───な、んだと?」
 便箋を持つ手が震える。
「あんの、しらばっくれ中年が……!」
 ふところの隙間から顔を出したカリーファが、面白がって読み上げた。
「『地下に行きなさい』───なに、これ?」
「そのまんまの意味だよ。ちっくしょう!」
 くしゃくしゃに丸めて、床に叩きつける。それでも気が治まらなくて足で踏み付けた。
「あー、頭にくる! 統皇なんぞに一瞬でも申し訳ねえと思った俺が馬鹿だった! やっぱ最高に気に入らねえ!」


第五章(3)に続く。

ぶくぶくぶく……どたっ。

第五章(1)


 ガラス天井からは黄色掛かった陽が射してきていた。
〈森〉の黎明期からの記録を保管してある蔵書室は、高さにして三、四階ほどの塔となっている。内部は円筒形で天井までの吹き抜けとなっており、丸い壁面すべてに本棚が作られていた。そのほとんどに隙間なく古めかしい本が詰まっていて満杯寸前のように見えるが、増殖し続ける冊数を限りなく受け入れ、生き物のように成長する建物なのだった。
 どの本も簡単に閲覧できるよう、スロープが天井までの道のりを確保していた。所々にはしごも用意されていて、〈森〉の住人なら誰でも利用できるようになっている。
 目が眩みそうな蔵書の数に、アキラはうんざりした目を向けた。
 この部屋に篭もってから歴史書の類を漁ってみたが、成果はほとんどない。そして、気分も重く沈んでいる。
 はしごを椅子代わりにして腰をかけると、ため息をついて両手で顔を覆った。
「俺って、馬鹿だな……」
 自分の声に、更に暗い表情になる。
「俺は相変わらず、どっちにもなれない。妖魔にも、人間にも……」
 アキラは自分に言う。傷口をつつくことで痛みがあることを確認するように。
「……アキラちゃん?」
 カリーファの声に、アキラは顔を上げて見回した。立ち上がって手すりから下を覗くと、真っ白い姿はにこやかにこちらを見上げていた。
「そっち行ってもいいー?」
「だめだ」
 にべもなく断って、付け加えた。
「もう疲れたから休む。今そこに行くから」
 手摺りを乗り越えて飛び降りる。アキラが床を震わせて着地すると、本棚が一斉にざわめいた。
「無謀だなあ。怪我するよ」
「俺がそんなへまやるかよ。天辺から飛び降りたって平気だぜ」
「またまたあ」
 何がおかしいのか、けらけらと笑った。聞くものの気勢を削ぐ明るさだった。
 アキラは軽く手をはたいて、ふと足元を見回した。
「あれ? 鵺は一緒じゃねえのか」
 常にセットのような気がしていたので、片方だけだと物足りない気がする。
 手近な本を触りながら、カリーファはにっこりした。
「部屋の外で待ってるよ。精気酔いしたみたい」
「精気酔い?」
「あ、勝手に僕が名付けたんだけど、精気にあたり過ぎたせいで気分が悪いって。四鬼獣さんたちが口輪を外そうとして気を注いでくれたんだけど、結局びくともしなくてね。キマ鵺、倒れちゃったんだ。動くのが大変みたいで、廊下で待ってるって」
 適当な方向に指を差し、
「それにしても四鬼獣さん達の精気は逞しいね。力強いというか」
 感心したふうに、頷いてみせた。
 四鬼獣とは、身体に動物を棲ませて制御している者たちだった。種の力が衰えている動物には妖魔が存在していない場合がある。それらをサポートする任を負っているのだ。
 その名の通り、四名の者が分担してあたっている。
「あいつ等でも駄目なら難しいな。〈神話〉の呪具なんて統皇じゃ手を出せねえし」
「どうして? 王さまは一番強い力を持ってるはずでしょう?」
「向き不向きがあるんだよ。方向が違うというか、質の問題だ。基本的に統率者は陽で、四鬼獣は陰だから」
「うーん、やっぱ解んない……」
 お手上げの仕草をして、あっさりと諦めた。
 もし訊かれても、感覚を説明するのは面倒なので、
「解らなくてもいいさ」
 適当に話を打ち切った。 
「言い忘れたけど、王という言い方はしないんだ。王は君臨するものだろう? 〈森〉の場合は統率者……率いる者という。簡単に統皇と呼ぶのが一般的だがな」
「あ、そうなんだ。王さまも───じゃなくて統皇さんって呼ぶんだっけ───何も言ってなかったから」
「あの人はそういう人だ。うるさいことは言わない……」
 アキラは唇を曲げて独り言のように言い、ふっとカリーファの白い頭を小突いた。
「それにしても、何か俺に用があるのかよ。暇だから遊んで欲しいのか?」
「ひどいなあ。僕、王……統皇さんから手紙を預かってきたのに」
 カリーファは頬を膨らませながら、ポケットから紙片を引っ張り出した。


第五章(2)に続く。



やっと半分……ううううう~、もう勘弁してください。

(4)



 丘の上から続く細い道は、“客”を迎えるに相応しい景観を伴っていた。
 緩やかな下り坂が平坦に変わる頃には、さり気なく並木道に移っていって、いつしか樹々の天蓋が頭上を覆う。黒い葉の間から陽光が土に落ち、そよ風に揺れる枝の動きに合わせ、ちらちらと光が瞬いている。
 どこか隠れた岩から清水が湧いているらしく、風が瑞々しい空気を運んできた。
 目を転じると、木の陰に憩っていた小鹿が飛び跳ねて逃げる。転生する前に寛いでいる魂だろう。───〈森〉には確かに動物たちの気配に満ちている。声なき声で歌う鳥、枝を伝わって髭を震わせる栗鼠、昼寝をする大型の猫科動物や木陰に佇んでいる草食の首長い生き物。どれもが楽しげにさざめいているが、実際の声としては聞こえない。
 気配だけが全てを語っている。ここは楽園だ、と。
 動物のための世界だ、と───
「気持ちのいいところだなあ」
 カリーファは嬉しそうに言った。
「ねえ、キマ鵺? お前もそう思うよね」
《……》
 鵺は何も言わなかったが、その目には同意する色が浮かんでいた。
「お前等に転生する動物を見せてやろうか?」
 急にアキラが、いたずらを思い付いた顔で言った。カリーファは首を傾げる。
「そんなことできるの?」
「幻ならな」
 片目を閉じると、先に立って歩き出した。肩越しに手招きする。
「ちょっとしたサービスだよ。お前等“お客さん”に」
 顔を見合わせたカリーファと鵺は、よく解らないながらも置いていかれまいとして足を速めた。
 アキラは深くて長い息を吐くと、両手を顔の前にかざした。様式に則った動きで気合を籠める。
 半分ほど閉じたまぶたからのぞいている瞳は、微かに黄金色を帯び始めていた。
「……来い」
 低い声で呟くと、人差し指を唇に当てて、目の前の空間を斬った。
 一陣の風が通り抜けてゆき、やや離れた前方に気配が凝縮し始める。
 電磁的な影が走ったと思ったら、一頭の黒豹が緩やかに姿を現した。
「かつて〈森〉を巡った魂だ。“想い”を拾い上げて形を作ってやったからな。つまり、幻だ。恐くなんかねえぞ」
 アキラはカリーファの白い頭を軽く叩き、黒豹を目で追った。
「こいつは動物園の檻に閉じこめられて、ノイローゼになったんだ。欝屈したまま死んだから、長い間〈森〉を彷徨った」
 しなやかな歩き方の生き物は、よく見ると毛が抜け落ちて艶をなくしていた。もがいた痕なのか、片足を引きずり疲れているように肩を落としている。
 道は狭くなり、いつのまにか〈森〉の樹々は陰欝に変わっていた。折れ曲がった枝がだらしなく垂れ、瘤だらけの幹はどれも絶叫する顔にしか見えない。
 両側に生い茂る雑草は不穏にうごめき、空気までもが痛みを感じるほど冷たくなっている。
「この景色は───こいつが見えている〈森〉の姿だ。すさんだ動物には楽園がこう見える」
 アキラが呟くと、黒豹は哀しげな目を上げて樹々を見上げた。陽光が微かに射してきて、黒豹の足元を照らす。
 福音の兆しが顕著になり、斜めに射してくる光は増えていった。
「しかし、ようやく終りが来た」
 動物の守護者の声は、力強く響いた。
「狭い檻の中での憤懣は遠いものになり、今では忘れかけている」
 アキラの言葉が合図となり、両側を覆っている樹々が明るくなった。黒い葉は一歩ごとに鮮やいでゆく。
 ねじれた樹は疎らになり、絡まり合った枝がほどけて空の色をのぞかせた。
「自分がどこに行けばいいか、判った」
 黒豹は背筋を伸ばして、木漏れ日をいっぱいに浴びる。その光が全身を包み、艶やかに毛皮を蘇らせた。
 いきなり黒豹は、歓喜の雄叫びをあげて走り出した。アキラまでもが万感の思いで叫ぶ。
「光だ、光の中へ行こう!」
 アキラの声に触発されたように、弾丸となってまばゆい広場に駈けてゆく。
 後を追うもの達も、それに負けまいとして目もくらむ中に飛び込んだ。開けた場所は下草が短く刈ってあり、呆れるほど広々としている。陽光は目に痛いほど輝き、全身で喜びながらアキラは振り返った。
 数多の動物たちらしい影が一様に輝いて、空気に溶けてゆく。
「動物達は、気持ちが真っさらな状態でここに立つ。さあ、何が見える?」
「これは……」
 息を切らせたカリーファと鵺は、目を丸くしていた。
 そこには、見上げるほどの白い壁と、荘厳な門が出現していた。───と、同時にだだっ広い草原も目の前に広がっている。どちらも確かな重みがあり、片目ずつ別の景色を見ている感覚に近かった。
「選べるんだ。どちらでもいい。……もう少し魂を休めてもいいし、もう充分だと思ったら転生していい」
「さっきの豹は───どっちを、選んだの?」
 カリーファが切れ切れに訊いてくる。アキラは薄く笑んで、首を振った。
「確かめていない。───でもあいつのあの目、あの喜び……俺はこっちだと思う!」
 言うなり、アキラは転生の門をくぐった。
 その瞬間、周囲に広がっていた草原は掻き消えて、どこかの中庭と思える場所に入っていた。
 統率者の中庭へ───
 塀で囲まれた庭は中央に泉があり、ほとりには一本の香木が植えられている。その木陰に一段高くなっている台座と、ひとの姿があった。
 裾の長いローブで全身を包んだ、ひとりの中年の男がにこやかに微笑んでいる。内側に宿している黄金色の光は隠しようもなく、瞳からこぼれていた。
「……晃夜?」
 男が微かな戸惑いを滲ませて呟く。
「アキラちゃん、待ってよ!」
 カリーファの声に、アキラは我に返った。
 中年の男から顔をそらし、腕組みをして冷たい門に寄りかかる。
 そこへ、つんのめるようにしてカリーファと鵺が現れた。
「これは……、驚いたな」
 男が悠然と微笑んだ。
「魂ではなく、客人が飛び込んできた」
 カリーファは驚いた顔で周囲を見回し、男に気付いてバネのようにお辞儀をする。
「あ、お邪魔してます。その……勝手にすいません」
「いや、構わない。少々突然すぎただけだ。───あなた方のことは知らせを受けている」
「ということは……もしかしてあなたが〈森〉の王様ですか?」
 慌ててカリーファは跪いた。
「始めまして。あの、僕、うまく言えないけど……今少しだけ祈らせてください。すべての動物が幸せになるように───」
 目に涙をいっぱいに溜めて、鵺の体に手を置いた。
「悲しみはいつか癒える日が来るんですよね。でも、少しでもその日が早く来ますように……」
 男は呆気にとられた顔をして、それから徐々に慈愛に満ちた笑みに変わる。
「感謝するぞ、客人よ。祈りを捧げてくれたのはあなたが初めてだ」
 アキラはゆっくりと体をずらし、門の外へ出て行った。その顔には苦すぎるほどの表情が浮かんでいる。
「あれ、アキラちゃん? どこ───」
 カリーファの声が追いかけてきたが、聞こえなかったことにしてその場から離れた。


第五章(1)に続く。


ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!


今日は私の本読みの師匠 ・ 笹さんに、「うちのデブ猫をお貸ししますね~」と約束をしていたので、嬉し恥ずかしショットを大公開してバーチャルもふもふをしていただきたいと思います。


おーい! 15歳のお年寄り猫、カブちゃーん!

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『呼んだ?』



あのさあ、ちょっとお腹のもふもふを……

『えっ? 僕の動画が見たい? じゃあ支度するから待ってて』

いや、別に誰も動画なんて望んでない……

『いいよいいよ。みんな僕のこと大好きなんでしょ。アー忙しい忙しい』



カブはソワソワして体を舐め始めました。


『準備オッケー、監督さん。きれいに撮ってね』

誰が監督さんだコラ。


もふもふ




うわー、モデルがデカイせいで画像がカクカクするう~!
第四章(3)


「突然に空から、ひと振りの刀が降ってきた。それは深々と岩に突き刺さって、地上にいる者の目をまばゆく貫く聖刀だった」
「へえー、刀がねえ……」
 呑気なあいづちに、「まあ、この辺が伝説っぽいとこなんだけど」と付け足して、
「ありとあらゆる生き物が、岩から引き抜こうとしたが駄目だった。人間も、動物も、動物から枝分かれした妖魔も、受け入れられなかった。だが最後にやってきた蝙蝠の妖魔、エン・ゲノム=ガムシャナが手に取ったときには、待っていたように抜けた」
「凄いね。選ばれたひとだったんだ」
「それはどうかな、ただ単に馬鹿力ってだけかも知れねえし。……いや、そんなのは置いといて、刀は意志を持っていて自らを『摂理の刀』と名乗った。ガムシャナは精神を同調させると、刀を揮って人間の世界と動物の世界を切り離した。世界を棲み分けさせたんだ」
「その動物の世界の方が〈森〉?」
「ご名答。系統の違う生き物が分かれたことによって、邪鬼は行き場をなくして地下に引き篭もり、世界は救われた」
「あれ? じゃあ神はどうなったの?」
「せっかちだな、これからすぐ出てくるよ。……ガムシャナの目には、明るい日差しが降り注ぐ地が見えた。そして、これ幸いと降臨する神の姿も」
 両手で煌めく粒子を表すように指を振ってみせる。
「『今こそ、この地は神々を迎える準備が出来た』と言いながら、華々しく降り立つのを見て、ガムシャナは大いに怒った。そして、神の世界をも切り離してしまった。『神は要らぬ』と……」
「うん、僕もきっと同じことするよ。ガムシャナさん、偉い!」
「ところが、そうはいかないんだな。摂理の刀は、ガムシャナの行動に失望して消えてしまう。『一時の激情に任せて摂理を揮うものこそ最も忌むべし』と言い残して」
「なんで!」
 身体ごとアキラに向き直って目を剥く。
「悪いのは神様じゃない? どうして刀は解ってあげないの」
「俺に訊かれても、知らねえよ……」
 勢いに押されて呟く。
「刀には刀の考えがあったんだろ。とにかく、これで〈森〉が誕生したわけだ。ついでに出来た〈神話〉とは存在の意味が違う」
「……ガムシャナさん、かわいそう」
「その話はもう終ったんだよ」
 いつのまにか立ち止まって話し込んでいたのに気が付いて、アキラはひとりと一頭を急き立てた。このままでは、朝になっても穴の中にいる羽目になりそうだったからだ。
「〈森〉が動物の死後の世界として機能し始めたのは、ガムシャナが統治して暫らく経ってからだという。その頃には人間界も落ち着きを取り戻して、自然発生的に人間の死後の世界〈混沌〉が出来た。どちらも『命の場』であり、確固としたサイクルを実現したが……〈神話〉は一度崩壊することになる」
「えー? だって、今もあるよ?」
「本当の意味での〈神話〉は死んだらしい。人間界と切り離されてから徐々に衰退が始まって、精神は消滅した。お前が見たのは神々の形骸にしかすぎない。過去の行動をなぞるようにしか生きていけず、一歩も前に進まない幻に成り果てた。そういう意味では〈童話〉と同種の世界だよな。だから、準異世界なんだ。発奮して過去から抜け出すことだって出来るのに、未だにその兆候は現われない」
「それって矛盾があるよ。精神は死んでいるんでしょう? だったら発奮しようがないと思うけど」
「存在には意義がある。元々神は精神が具現化した姿を持っているから、存在するからには精神もあるんだ。俺がさっきから『崩壊』だの『死んだ』のと言っているのは、本人たちがそう思い込んでいるからなんだよ。自分自身に縛られてる。死んだと思う精神が生きているんだ」
 カリーファに向けて言いながら、アキラは江森の言葉を思い出していた。
(あなた様の存在する意義は?)
 目の前にいるような錯覚を覚えて、頭を振って払い除けた。
「だから、〈神話〉には───〈童話〉も同じだけど───何も生み出さず、人間の想念を掠め取って維持している。もし、あいつ等が束になってかかってきても、〈森〉は小指一本で弾き返せるさ。なんたって常に新しい風が吹いている場所には、活気があるもんだからな」
 カリーファはにこやかに振り返った。
「アキラちゃんは、そこの守護者だもんね。しかも王様の後継者なんでしょ?」
「はん……! 俺は継ぐ気なんかねえよ」
 鼻息を荒くしたアキラは、はっと胸を押さえた。
「そういえば、どうして知っているんだ。俺のこと───」
「だって、向こうで教えてもらったもん。人間界に〈森〉の後継者がいるから訪ねるように、って。名前は蜜子さんから」
「あ、そう……」
 こんなとき、アキラは自分が〈森〉の公人であることを思い知らされる。統皇のことだから、アキラの名を正式な王名表に記載しているだろう。だが、どちらの名前で載せたのか……
「どうでもいいけどよ……、お前はなんで、俺を『ちゃん』付けするんだよ?」
「えー? 別に、意味なんてないよ。呼び捨てだと失礼だし、『アキラさん』は言いにくいし」
「ああ、その程度なわけね」
 ため息が出そうなのをこらえた。
「最高に格好悪いから、何か理由でもあるのかと思った」
「厭なの? じゃあどう呼べばいい?」
「そうだな、『僕の天使様』とか、『古今無双のいい男』なんてのが妥当かな」
「それ、絶対変だと思うよ」
 むっとした顔をすると、
《おい、蝙蝠》
 こちらはこちらで勝手な呼び名を使っている。
《向こうが明るくなってきた。出口か?》
「また入り口だったら面白いけどな。あいにく出口だ」
「随分長かったねえ」
 カリーファは吐息混じりに言った。
「あともうひと踏張りだよ」
「さて、それはどうかな?」
 ニッと笑ってみせると、カリーファの肩を掴んで二、三歩あるくのを手伝ってやる。すると、いきなりに視界が開けて───。
「わあっ! そ、外に出てる!」
 明るい日差しが降り注ぎ、幹も葉も黒い樹で出来た〈森〉にふたりと一頭は立っていた。ちょうど見晴らしのいい丘に、穴は繋がっていたらしい。
 周りを見回してカリーファは呟いた。
「これって……」
「『想念の場』とは、こういうことなんだよ。道はあってないようなもの、距離も同じくそれぞれの感じ方によって違う。もちろん〈森〉には地図なんかない、流動的で大まかな地形を持つ、動物にとっては何年いても飽きない場所だ」
《ここは、気候が温暖なのか? 快適だが》
 鵺は、丘からふもとへと吹く風に目を細めた。微かに花のかおりがする。
「それぞれの感じ方によって違うと言ったろう? 自分が一番過ごしやすい温度に感じるように出来ている。この前、白くまの妖魔に訊いたら『涼しくて気持ちがいい』と言ってたぜ」
《……楽園、なのだな》
「そうだ。動物と妖魔で作り上げる、理想の世界だ」
「理想の、世界」
 カリーファは両手を広げて空を仰いだ。樹々の天蓋が途切れているので、深みのある青空がどこまでも広がっている。
 銀色の飛行物が尾を引いて横切っていくのは、遥か上空を巡回している看管鏡だった。人間ほどの大きさをしている鏡は、その体に〈森〉をあまねく映して管理に利用されている。ある意味、悲しい存在であるが……太陽の光を受けて輝く様は美しかった。
「すてきだね。とても不思議で、でも安定した雰囲気に包まれているよ」
「歴史始まって以来、数々の苦労の末にここまで仕上げたらしいからな。実は俺も、案外居心地がいい場所だと思っている」
「だったら、どうして人間界に住んでいるの?」
「忘れたくないから、かな……」
 口からこぼれた言葉に自分でも驚いて、カリーファを小突いた。
「なんてこと言わせるんだよ。さあ、もう行くぞ!」
「どこへ?」
「お前、〈森〉に来た目的を忘れてないか? 取り敢えず、統皇に会う」


第四章(4)に続く。



ギルガメッシュの…パク…リ…。。。どたっ(卒倒)
夏が終わって、朝とか晩が涼しくなって参りました。

それにしても……


今年の夏は、本当に暑かったですね?

9月になって、ホッとしております。

9月といえば、もう秋です。



しかし!


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 慌てない 慌てない


   一休み 一休み……











昨日、早くも。

『石焼き芋』売りのトラックを見かけました。

ちょっと早すぎなんじゃないでしょうかねえ~!

焼き芋売りのおじさん。
慌てない、慌てない。

……まだまだ暑っちーんだからさ!




好きだけどね、焼き芋。 気温30度なのに食う気になれませんわいな。


第四章(2)


「うわー、暗ーい!」
 カリーファの語尾が、陰陰と谺した。
 アキラが降りてくるまで面白がって声を張り上げていたらしく、遠くの方で微かな響きを帯びている声は別の言葉尻を繰り返している。
「遊んでるんじゃねえよ。おら、さっさと歩け」
「でも真っ暗だよ。何も見えない」
「目が慣れてないからだ。辛抱しろ」
 蝙蝠族の目には、白い人影の隣に白い鳥の姿がぼんやりと浮き上がって見える。しかし通常の視力では、ほぼ闇に包まれていると思っても無理はない。
 そう思い直して、
「……火、よ」
 呟いて、手首を返す仕草をした。
 その手に青白い炎が燃え上がる。軽く放り投げると、天井近くで揺らめきながら、宙にとどまった。実際の炎ではなく、燐に似た物質である。
 周囲が薄く照らされて、カリーファが嬉しそうに振り返った。
「凄いね! これって魔法なの?」
「そんなんじゃねえよ。これは『術』だ。動物の能力を凌駕した力であって、非現実的な魔法とは違う。生きるために必要な能力、というか……個性みたいなもんだな」
「よく解んないよ」
「……うん、まあそうだろうな。実を言うと俺だってこれが何かよく解っていない。でも使える。───その程度のもんだ」
 アキラは苦笑して見せて、カリーファを軽く蹴飛ばした。
「ほら、明かりが点いたんだから、さっさと歩く!」
「あん、乱暴しないでよ」
 頬を膨らましたカリーファをいなし、じっと佇んでいる鵺の身体を叩いた。
「おとなしいな。まあ、それはそれで結構だけど」
《悪いか?》
 頭に白い鳥を乗せたまま振り向く。
《俺はお前に全て任せた。───出発の号令を待っていただけだ》
「あ、そう……」
 拍子抜けして呟き、「んじゃ、行くか」と中途半端な号令を掛けた。
 穴の中は地下通路のように閉鎖した空間だった。天井はアキラが飛び跳ねれば届く程度にしかなく、横幅などは両手をいっぱいには広げられない。
 並んで歩けないので、一行は一列になって進んだ。
「これって、どのくらい長さがあるの?」
 首を捩じ曲げて訊いてくるのを、「前を向けよ」と無理遣り顔を掴んで戻してやる。
「長さ……は、計ったことがないようだな。ひとそれぞれ違うから」
「違う?」
「そうさ。よく覚えておけよ、〈森〉というのは『想念の場』なんだ」
「そうねん、の、ば? 想いが形になる……ってこと?」
 顔を見ないと話しづらいのか、いちいち振り返ってくる。
 それを直してやりながら、
「正確には『想いが形になる事の可能な場所』、または『想いが形になることで維持できている場所』かな。動物と妖魔の“楽園”を求める気持ちが、〈森〉を作っている」
「随分と〈神話〉の世界と違うなあ。あそこはふわふわしていたけど、そういうのはなかったみたい」
「準異世界と一緒にするなよ。それに一応〈森〉は、最初に出来た異世界だぞ」
「それってどういうこと?」
 単純に不思議そうな顔で首を傾げる。
「僕、異世界と準異世界の差が解らないんだ。ちょっと教えてよ」
「ひとことじゃ説明できない。長い話になっちまう」
「それでもいいよ。だって、歩いてるだけじゃ退屈だもの」
 面白い話を期待しているのか、爪先を踊らせた。
 アキラは舌打ちすると、わざと首の関節を回して見せる。
「ほとんど神話になってるぐらい古い、乱世の時代から始めないと、か。ああ、面倒臭え」
 聞こえるようにぼやいた。
「ぶつぶつ言わないの。さあ、早く早く!」
「解ったよ。……とんでもなく、すっごい昔、原初には人間界しかなかった。そこに人間と動物、そして神がすんでいた。そこまではいいか?」
「余裕でオッケー」
 屈託のない言い方になぜかむっとして、首の骨が軋むほど強く前を向かせる。
「混沌とした世界に体系の違う生き物が一緒にされたことで、それぞれに負担、つまりストレスを強いられ、負の感情を刺激するものが生まれちまった。それが『邪鬼』だ。墨が気体になったような、黒い煙だと言われている。
 それは次第に地上を覆い尽くし、生き物たちを狂わせた。血みどろの殺戮、共食い、裏切りが横行した。爆発的に増えた邪鬼のエネルギーは、しまいには草木も生えないほどの荒廃を呼んで、火山は噴火するわ地割れは出来るわの大カタストロフィを呼んだ」
「神様は助けてくれなかったの? 同じ場所に住んでいたんでしょう」
「神は、逃げた」
 簡単に言ってから、肩を竦める。
「人間と動物が争い合う地上に恐れ戦き、安全な天の一角に引き篭もった。『穢れ』から目を背けたんだ」
「ひっどーい」
 怒った顔をして振り向いたカリーファに、アキラは苦笑いした。
「神ってのは穢れとは対極の存在だからな。仕方がないといえば仕方がないんだ」
「それにしても、酷くなる前に手を差し伸べる気持ちぐらいなかったのかなあ?」
「邪鬼が出現した時点で、自分たちの手には負えないと思ったんだろ。とにかく、神に見捨てられた地上は崩壊寸前になった」
 話を戻すついでにカリーファの首も戻してやる。しつこいくらいに前を向かせるのは、足元が暗い中を歩いているからだ。時々瓦礫のような物が落ちていることがある。
 急にうな垂れた白い頭は、足元を見ているわけではなさそうだった。
「……寂しくなかったのかな」
「はあ? 誰が」
「人間と動物だよ。見捨てられるなんて、厭だよね」
 口調は重く沈み、後姿さえも暗闇に呑まれそうに見えた。
 アキラはカリーファの後頭部をつついて、振り向かせる。
「生きていくのに精一杯で、それどころじゃなかったと思うぜ? 第一、見捨てられたことすら解らなかったんじゃねえのかな」
「でも……」
「生き物ってのは、案外強いんだ。絶望さえしなければ生きていける。生きていけるからには生き抜くしかない。そう考えるのが自然だ。俺の言っている意味、解るだろ」
「うん」
「だったら気に病むな。……ほら、もう前を向けよ」
「あん、自分勝手なんだから、もう」
 押しこくられてカリーファは形ばかりの文句を言ったが、曇った顔は既に晴れていた。
「それで? どこまで話は進んだっけ?」
「ん?」
 とアキラは首を傾げ、真っ白い背中を小突いた。
「お前が余分なこと言うから、解らなくなったじゃねえか」
「僕のせい?」
 ふたりは唇を尖らせて、そっくり同じ表情を見合わせる。
《地上が崩壊しそうになった……というところまでだ》
 黙って歩いていた鵺が、笑いをかみ殺すような口調で言った。
「ああ、そうそう」
 アキラは、悔しまぎれの陽気さで手を打つ。
「地上は崩壊しそうになった。砕け散る寸前までいって、ばらばらの小惑星群となる一歩手前、細かい塵とガスを撒き散らした『かつて地球だったもの』に成り果てるかと思ったとき、いや、実際そうなりかけた。本当にあと数日もすればなっていた。真空の暗い宇宙に空中分解する青い地球───恐ろしいことだな。真面目な話、そこまで切羽詰まっていた」
「えーっと、その辺は解ったからもういいよ」
「もしあのままだったら、飛び散った海は絶対零度の宇宙空間では氷となっていただろう。氷塊は太陽の引力に引き摺られて彗星となり、深遠の中にひとすじの光を残す天体ショーになっていたな。分離した塩分が、太陽風に晒されて結晶と化すところを想像してみろよ。それらは宇宙を漂いながら、雪片のように煌めいて……それはもう美しいぞ」
「解ったってば」
《お前、まさか……》
 鵺が振り返った。
《話の続きを知らないんじゃないだろうな?》
「ば───」
 鋭い突っ込みに、術で生み出した炎がアキラの代わりに激しく揺らいだ。
「バッカじゃねえの! 俺はくそつまんねえ神話なんか全然うろ覚えじゃねえし! まして面倒臭いから話をはぐらかそうなんてこれっぽっちも思っちゃいねえよ!」
 気が付くと、話の見えていなかったカリーファが、湿っぽい目付きで睨んでいた。
「うっわー、ヤなひと」
「放っといてくれ」
 拗ねた口調で鵺とカリーファをひっぱたき、
「……で、地上は崩壊しそうになった」
 アキラは強引に話を戻した。
「もう何事もなかった顔してるよ」
《こういう奴なんだよな。ついてきて損した》
「で! 地上は! 崩壊しそうに! なった!!」
「きゃあ! 耳元で怒鳴らないでよ」
 とうとうカリーファは笑い出した。
「その先は?」
《俺も聞きたい。崩壊はしなかったんだろ》
「当然だ。つまりだな、奇跡が起こったんだ」
 アキラはようやく、先程と同じ調子で話しだした。

第四章(3)に続く。



ぐわおおお……これは苦行ですか? かゆ。うま。
おおおおお~! これは朗報です。
私の大好きな小説、「魔術士オーフェン」の後日談が、なんと作者サイトにて密かに連載中というニュースが飛び込んできました。スザザザザー、滑り込みセーーーーフ! 昨日の動画ネタはもういいです。

今さらながら、「魔術師オーフェン」とは……?

富士見ファンタジアを代表する作家・秋田禎信 著の一大ファンタジー小説です。

な~んだ、ラノベじゃん? そう思ったアナタ。

読んでみると、内容の凄さに誰もが驚くと思います。
まず、スケールがでかい。
そしてキャラクターの濃さ、半端じゃない。
文章のテンポ良し、ギャグもきっちりとキメテくれるし、なによりも主人公オーフェンの性格が思いっきり分裂気質なところが堪らなくイイんですねえ~

この作品はテレビでアニメにもなりましたし、コミックでも連載されていました。
2003年にシリーズは完結しているんですが、私はずっと 「あのラストは完結しきっていない」 という気持ちでモヤモヤしていたんです。

それが、ようやく作者サイトで続きを読めてヒジョーにウレシー!のですよ~!
人名などは「アイツ」とか書かれていて最初は誰が誰かわかりませんが、読んでいくとだんだんとハッキリしてきます。ああん、じれったいっ。
でもそれがまた、嬉しかったりして?

不定期連載ということですし、ちょっとずつしか読めないのですが、またシリーズ復活の夢が持てそうなのでバリバリ応援したいと思います。


秋田禎信さんのサイト
『モツ鍋の悲願』
雑記にて不定期連載中です。

情報ソース
「GIGAZINE」様。

早く単行本が出ないかな~♪

やっとパソコンをする時間が取れました。
ええ、すべて 『ペルソナ4』 が悪いんです。私の時間がちゅるちゅると吸い取られていくんですよ。
一度クリアしたのに、マルチエンディングなどという阿漕な戦略を仕掛けてきましてねえ…私はお陰で、またしても寝不足です。家族からも、「お前はアホか」 と言われております。

な、泣かないもんっ!

というわけで、今日は思い切ってブログの更新をしようかと思います。明日と明後日の分を、予約投稿をいう手を使って!

しかしそれだけでは申し訳ないので、来ていただいた方には楽しい動画でも見ていただこうかと思います。
何気にウチの猫(15歳のお年寄り猫、カブ)に似ているネコちゃんです。

音は気にならないと思いますが、念のためご注意を!

滑り込むねこ。



セーーーーフ!



第四章(1)


 あれだけの騒ぎがあっても、ドギーとミイは目を覚まさなかった。取り敢えずよく見えるところに、『きれいに掃除しておくこと!』という書き置きを残して喫茶店を出る。
 そして鵺とカリーファに、周囲の空間を捩じ曲げる術を掛けて姿が見えないようにした。
「いいか、絶対に話し掛けるなよ! 人間に見られたらまるっきりの怪奇現象だと思われるからな」
「どうして僕まで消すの?」
「話し掛けるなってば!」
 不毛な会話を続ける間もなく、住宅街を抜けると突然空気が変わる一帯に入った。天にも届きそうなほどの木立が周囲を圧し、人間世界とは違うことを厳然と示している。
 付近一帯には妖魔しか受け入れない結界が張ってあった。
 アスファルトの道路からはみだしそうな雑草を掻き分けてゆくと、微かにだが踏み分け道の土色が見える。密集した木々の向こうに、崩れ掛けて菌糸類の住処と化した建物があった。遠い昔に捨てられ、忘れられた神社だった。
〈森〉へと繋がる穴は、この神社の内部に開いているのだ。
「うわー……、なんか建っているのが不思議なぐらいだね」
 素直な感想に、アキラは、
「次の台風が来たらアウトだろうな、ここも」
 と振り返った。見えなくする術を解いて、鵺とカリーファを見詰める。
「今、蜜子が〈森〉と連絡を取ってるから、暫しの待機だ」
 半分腐った賽銭箱を蹴飛ばしてどけると、社殿に登る階段に腰を降ろした。
「客として招待されないと〈森〉には入れないからな。それまで、詳しい説明でもしてもらおうか」
「何を?」
「今までの状況だよ。……おい、鵺!」
 退屈そうに後ろ足で耳を掻いていた生き物に、厳しい目を向ける。
「そこで他人事みたいな顔してるんじゃねえよ!」
《けっ》
 人間型だったら、さぞかし憎らしく見えるだろうという目の色でそっぽを向いた。アキラは真剣に殺意を覚えて腰を浮かせたが、忍耐の限界に挑戦して勝利を治めた。そんな自分を密かに誉めてやる。
「この超ウルトラ・スーパー寛容な俺様が事情を聴いてやる。お前等は腰を低くして控え目、且つ簡潔に説明すること」
「うわー、いきなり居丈高になったよ、このひと」
《極端から極端に変わる奴だな。情緒不安定なのか? それとも単なる馬鹿?》
「うるっせえよ!」
 拳を振り上げて、寛容とは無縁な割れ声で怒鳴った。
「いいから、さっさと説明しやがれ!」



 準異世界である〈神話〉は、茫洋とした世界でありながらも安定していた。かつて存在していた神々は人間界に対する影響力を失い、ただなんとなく集って歌を歌ったり詩を朗読したりする毎日を続けている。夢のように穏やかで、変化のない場所だった。カリーファはミューズの歌声に惹かれて〈神話〉を訪れ、そのまま居ついていたらしい。時には戦神と一緒に幻影の動物を狩ったり、ドラゴンを退治に出掛けたりと、すっかり馴染んでいた。
 そんなある日、突如として悲鳴は始まった。〈神話〉と隣り合わせに〈童話〉という物語の登場人物が住まう世界があるのだが、一部が重なり合っているために澱みの部分が出来ている。そこから、一匹の化け物が生み出された。───それが鵺だった。
 狂暴な牙で逃げ惑う神を喰い殺し、〈童話〉の柔らかな空気にも血の匂いを撒き散らした。被害は甚大であった。
 準異世界の住人は実体を持ってはいないが、恐怖によって殺される。幾人もの有名な者達が消え、名前すらも残さなかった。
 和御魂の進言で、甕に盛った酒が大量に用意された。鵺はその策略に引っ掛かり、酔い潰れたところに口輪を嵌められて捕らえられた。霊力の篭もった呪具は鵺の力を失わせる効果があった。
〈神話〉と〈童話〉の合同会議が持たれ、獣は獣の世界に帰すべきとの結論が出た。
 そしてふたつの世界とは関係のないカリーファが『使者』として立てられた。親書の扱いは非公式のものだという。
「保身に走った、か……」   
 アキラは呻いた。
「準異世界とはそういうものなんだろうな。世界を維持するのに精一杯というところか───それかむしろ、弱まっていると考えるべきか」
「弱まってる? そうは思えなかったけど?」
 驚いた顔でカリーファが言うと、アキラは鼻で笑った。
「自分たちで解決できずに追っ払っただけじゃねえか。しかもお前みたいな部外者の手を借りなければ、この鵺を他世界に送ることもできなかった。要は力が足りないんだ」、
「優しいひと達なんだけどなあ。僕には本当によくしてくれた」
「それとこれとは関係ねえだろ。……まあ後はこっちの問題みたいだし、深く考えるな。白髪がはげるぞ」
「これは白いだけ。白髪じゃないよ!」
 カリーファは頬を膨らませ、小石を蹴飛ばした。そんな仕草は子供っぽく、どこか愛嬌がある。
 アキラは肩を竦め、鵺に向き直った。
「やい、こら化け物」
 ふて寝を決め込んでいた合体生物は、目を開けただけで動こうとしない。
《俺のことは『崇高な魂』と呼べと言ったろ》
「さっきと違うじゃねえか」
 木切れを投げ付けて、睨み付ける。
「どうして襲った? 何か恨みでもあったのか?」
《……》
「腹が減ったとかの衝動ではないな。第一、神なんて旨そうじゃねえし。楽しいからとか嫌がらせの類とか、何かあるんだろ?」
《訊いてどうする?》
 獅子の目を光らせて頭をもたげ、鵺はのっそりと起き上がった。ワニの前脚で砂を掻き、背中の筋肉がかすかに盛り上がる。
 いつでも襲いかかれる体勢だった。
 アキラは緑掛かった目に力を籠めた。
「別にどうもしねえ。俺は単に知りたいだけだ」
 徐々に瞳の圧力を強める。
「認めたくないが、お前は確かに動物だ。だったら俺は、お前が何を考えていたのかを知りたいと思う。なぜ襲ったのか。襲いながら、爪で斬り裂きながら、どんな想いでいたのか───それを聞くことを、俺の心が求めているんだ。お前の考えていたことを知りたい、と」
 互いに視線で戦っていた。相手をねじ伏せようという力と、それを撥ね返す力で。
 しかし勝負は最初から決まっていた。
《……変な奴》
 負け惜しみを呟くと、鵺は顔をそらした。
《俺を恐がるから、頭にきた。───血に飢えた獣だと決め付けやがって》
「始めから襲うつもりではなかったんだな?」
《わからない。だが、そうだと思う。……気がついたら俺は退治されようとしていて、それを迎え撃っていた。血の匂いにめまいがするような気分になって……それからはもう訳が判らなくなっていった》
「そうか。わかった」
 アキラは頷いた。
「それを聞いて俺の態度は決まった。〈神話〉と〈童話〉の世界を告発する」
 鵺が驚いたように目を見張り、カリーファは鵺の表情に驚いている。それを茶化すように見比べて、
「一応、俺は〈森〉の中では統皇に次ぐ地位にいるらしい。今回はそれをフルに活用して、お前が受けた辱めを不当なものとして抗議してやる。ここまでこけにされて、黙っちゃいられねえよな」
《……》
「お前と俺たちを、『獣』呼ばわりした奴らの鼻を明かしてやるさ」
《本気で言ってるのか?》
「俺はいつでも百パーセント本気だぜ。……もし、それでも足らなきゃ〈神話〉に乗り込んで神々をぶん殴ってやる。そんなところでどうだ、何か不満はあるか?」
 鵺は身体を起こして座り直した。
《好きにしろ》
 口調とは逆に、見つめてくる目の色は静けさが宿っていた。
《せいぜい頑張ってくんな》
「あいよ。任せておけ」
 気軽に答えると、タイミングを計ったように真っ白い鳥が現われた。蜜子の伝言鳥である。
 見なくとも内容は知れている。この手の要請を断る必要はないからだ。
「よし、行こうぜ。この鳥が認証されれば〈森〉に入れる」
 と言いながらカリーファの肩に鳥を乗せ、アキラは二、三歩後ろに下がって首をかしげた。
「お前、全身白っぽいから伝言鳥が目立たないな。じゃあこっちだ」
 鵺の頭に飛び移らせて、「まあいいだろ」と頷いた。
 格子戸を開け放つと、中には御神体が鎮座していたはずの場所に黒い穴が開いている。〈森〉と人間界を繋ぐ通路だった。
 アキラは手をかざして、長い息を吐く。
 緑掛かった瞳を半眼の中に沈めて、掟通りの呪言を唱えた。
「〈森〉の神にも等しいエン・ゲノム=ガムシャナよ。白き鳥に率いられしものどもを、我が名において正式な“客”と認定する。聞き入れよ!」
 穴の外因部は、一度大きくたわんで輪郭をぼやけさせた。アキラの声が染み透っているかのように波打ち、徐々に静まってくる。
 完全に元どおりになるのを確認してから、アキラは鵺の体を軽く叩いた。
「よし、お前から入れ。……真ん中に白髪小僧、最後が俺」
「白髪じゃないってば!」
 アキラは笑いながら、先頭の鵺に合図をした。ゆっくりと歩いていく身体が黒い穴に吸い込まれて行き、「あ、待ってよ」と、カリーファも同じように消える。
 穴の外側に手を掛けようとすると、白すぎる顔が戻ってきた。
「言い忘れたけど……」
「なんだよ?」
「僕、きみと友達になれそうな気がする。だって意外といい人みたいだもの」
 カリーファはにっこり笑った。
「キマ鵺のあんな顔、初めて見たよ。どうもありがとう」
「礼を言われる筋合いはねえよ」
 ぺし、と音を立てて額をはたくと、無理遣り押しこくって穴に入れる。
「お前と話をすると、なんか調子狂うんだよな。頼むから少しおとなしくしてくれ」
「えっ、何? なんて言ったの? よく聞こえない」
「他人のペースに巻き込まれるのは嫌いだって言ったんだ」
 アキラは独り言のように言ってから、体重を乗せてカリーファの頭を穴の中に沈めた。
 ふっと軽くなり、穴の奥から重い者が落ちる音が響いてくる。アキラは笑おうか眉をひそめようかと迷う表情でその場に立ち尽くした。
「災厄、か」
 引っ掛かっている言葉を呟いた。カリーファのどこが“災厄”なのかがよく解らない。正体不明で自分の名すら言わないところは怪しいが、話をしてみれば飛び切り破天荒というわけでもなく、単に子供っぽいだけの少年だ。もしかすると、蜜子は鵺のことを言っていたのかもしれなかったが、アキラの直感は違うといっている。
 これから何かが起きるのかもしれない。……が、起こらないかもしれなかった。アキラは蜜子の能力について、動物の臨終以外の予言にはまるきり信を置いていなかったのだ。
 アキラは簡単に肩をすくめると、身軽に黒い穴へと飛び込んだ。今の段階では、まだ先のことを思い煩う必要はないと気がついたのだった。


第四章(2)に続く。



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縦書き(11)に続く。


かゆさ全開です。 ごめんなさいごめんなさい!
(3)

「な、なに───?」
 アキラは咄嗟に手を伸ばして、カウンター越しに蜜子の頭を抱きかかえた。ペンダントライトが振り子のように揺れ、埃が大量に舞い落ちる。
 二階のアキラの自宅で、何かが激しくのたうち回り、床をひっかいているような音がしていた。
 続いて、ゆっくりと歩き回る気配がしてくる。
「誰かがいるわ、アキラ!」
「しっ。静かに」
 それは慎重な足取りの割りには、よろけて椅子を引っ繰り返したりした。泥棒の可能性が消える。
 どこか間抜けな物音が断続的に続き、ドアを開け閉めする音がして、足音がビルの横に張り出しているアルミ階段を下ってくる。
 アキラは厭な予感がした。
「蜜子、『異界からの訪問者に気をつけろ』って、どういう意味だ?」
 圧し殺した声に、蜜子はアキラの腕の中で埃にむせながら囁く。
「 “災厄”よ」
 店のドアが開き、ベルが小刻みに揺れた。
「は、あー……い」
 ひょっこり顔を覗かせたのは、真っ白い少年だった。髪の色は銀に近い白色、肌は漂白されたように白く、身にまとっている服も白かった。瞳の色だけが薄い茶色で、今は涙をこらえているように潤んでいる。
 腰を屈めて、よたよたと店の中へと入って来た。
「なんで逃げちゃうのさ? 僕、ちゃんと挨拶しようと思ったのに」
 少年は「いててて……」と呟きながら、頬を膨らませる。
「きみの気配を追ってここまで来るの大変だったんだから! きみってば空飛んじゃうしさ、変なところから家の中に入るから僕らまでそうせざるをえなくって! 少しはこっちの身にもなってよって言いたいね、僕は」
 アキラと蜜子が固まったまま黙っていると、
「あんなに狭いところからよく出入りできるねえ。お陰でこいつが入ったら少し壊れちゃったけど」
 ドアを大きく開け放して後ろを振り返る。
「お前も大変だったよねえ?」
「あそこは客が使う出入口じゃねえぞ。───じゃなくて!」
 蜜子を抱く手がわなわなと震えた。
「お前いったい誰だ? 何しに来た? それに、それはなんだよ!」
 少年の後ろから入ってきたものに指を突き付けて、怒鳴る。
「その訳の解んねえもん連れて、とっとと出ていけ!」
「やだな、もう。怒らないでよ」
 なぜかおかしそうに笑いながら、少年は「紹介するね」と傍らを手で示した。
 そこには小牛ほどの生き物が目を光らせてアキラを見詰めている。頭は獅子、前脚はワニ、後ろ足が象で胴体は猿らしい。たてがみが妙に蠢いていると思ったら、細い蛇が何十匹と垂れ下っている。
「こいつはキマイラとも鵺ともつかない生き物で、僕は『キマ鵺』って呼んでるんだ。どうぞよろしく」
「って、なに紹介してるんだよ!」
「紹介するね、って言ったじゃない」
「しなくともいい!」
「どうして怒るの? 変な人だな、きみって」
 息を切らせたアキラは、にこにこと笑い掛けてくる少年と不穏に牙を剥く生き物を見比べて、倒れ込みそうな脱力感を覚えた。
「もう放して」
 蜜子が不機嫌そうに胸を押し返す。
「耳元で怒鳴り散らされると迷惑なのよ」
 アキラが無言で腕を離すと、埃をかぶった洋服を見下ろして顔を顰めた。
「それで? お連れ様の名前は解ったけど、あなたは自己紹介しないのかしら?」
「あ、ごめんなさい。本当の名前は言えないけど、通り名は『カリーファ』だよ。手品師をしてます」
「そう……。私は蜜子、こっちの怒りん坊は紫堂アキラよ。よろしくね。───それで、あなたは何をしにきたの?」
「えーっとね、〈神話〉の世界にいたんだけど、このキマ鵺が暴れるから〈森〉に引き取ってもらおうと神々の会議で決まったんで、僕は使者として遣わされたの」
「〈神話〉? 準異世界ね。あなたはそこの住人?」
「ううん、本当は違うけど、それも言えないんだ。ちょっと遊びにいったら長居しちゃって、しばらくはお世話になってたかな」
「それで今度は〈森〉に来たというわけね。その生き物は制御できるの?」
「うん。口輪を嵌めたから大丈夫、温和しくなったよ」
「〈森〉が受け入れると思っているの?」
「一応、親書を貰ってきたから、王様に渡せばなんとかしてくれるって言われたんだけど」
 アキラは頭を抱えた。
「どうして俺抜きで話が進んでるんだよ……?」
「あら、いつもそうよ?」
 蜜子が冷たく言い放つ。
 睨み付けてやろうと顔を上げたアキラは、 手品師カリーファが『キマ鵺』と呼ぶ生き物と目が合った。
 その途端アキラの頭が激しく掻き回されたようになり、粗野な思念が鋭く切り込んでくる。
《どいつもこいつも、馬鹿面下げて……》
「な、なんだと!?」
 いきり立ったアキラを、蜜子は訝しげに振り返った。
「どうしたのよ、突然に」
「い、今この化けもんが───」
 言い掛けた傍から、不満そうな思念が割り込んでくる。
《化けもんだと? 俺のことは『高貴な魂』と呼べよ》
「ふざけんな! なんでお前みたいな合成生物を『高貴な魂』なんて呼ばなきゃいけねえんだよ!」
《じゃあ、『高潔な魂』って代えてもいいぜ》
「変わらねえじゃねえか!」
 蜜子が「うるさいわね」と割って入る。
「何をひとりで興奮しているのよ? あなた、ヒステリー起こしてるみたいよ」
「だって、こいつが……」
 言い掛けて、アキラは愕然とした。
「もしかして、お前には聞こえないのか? この、鵺だか腐肉の固まりだか、見分けがつかない奴の言ってること……」
「喋っているの? 私には全然聞こえないわ」
 首を振る蜜子とは反対に、カリーファは嬉しげに飛び跳ねた。
「凄いね! 僕以外には誰も解らなかったのに、やっぱりアキラちゃんはさすがー!」
「……アキラ、ちゃん?」
 別の意味で愕然としたアキラに、鵺は弾けるような笑いの発作を浴びせかけた。
《アキラちゃん、だってよ───》
 気のせいか目眩がした。
「あ、キマ鵺が今笑った! 楽しいんだね」
「何を言っているのかが解るの?」
「ううん、ぼんやりとしか繋がらないんだ。でも会話は出来るよ」
 鵺が蜜子の靴先に鼻を寄せて、匂いを嗅ぐ。
《うまそうだな。喰ってもいいか?》
「『とっても綺麗な人だ』って言ってるよ」
《女の肉は柔らかいから好きだぜ。あと酒がつけば言うことなし》
「『おいしいお酒に酔ったような気分です』だって」
《なあ、白いの。いつまでもだらだら喋っていねえでさ、早くおもしろいところに連れて行けよ》
「『〈森〉に行くのが楽しみだ』」
 カリーファは通訳していて、感じ入ったように頭を撫でてやる。
「そう、キマ鵺……。お前もやっぱり動物の仲間なんだね。もう少し待ってて」
《まだ待たせるのかよ? いい加減に飽きてきたぜ》
「秋はまだだよお。今は冬の終りだね」
 成り立っているとは思いたくない会話を聞いているうち、アキラは体中の力が抜けてその場にうずくまった。
「全然駄目じゃん、お前ら……」
 災厄とは、限りなく疲れることだと知った。

第四章(1)に続く。


なんだかイヤな汗が出てきました……
(2)

「あなたって変な子ね」
「うるせえよ! 俺はかつて人間だったんだぞ。仕方ねえだろ」
 叫ぶように言って、頬を乱暴にこすった。赤みをこそぎ落とそうとしているように。
 いつのまにか蜜子の表情から、からかう色がしぼんでいた。
「そうだったわね」
 と、低い声で言う。
「でも思い違いをしないで頂戴。あなたはかつて人間だったのではないのよ。妖魔だったのに、人間として育てられただけ」
「違う。─── いや、そうかもしれないが、しかし」
 アキラは言いよどんで顔を背けた。
 言葉を続けることもなく、殊更ゆっくりと煙草を取り出して火をつける。
 蜜子はそんなアキラの横顔を真剣なまなざしで見つめていた。
 アキラは十歳ぐらいの時に、なぜか人間界に落ちてしまった。そのショックか記憶を失い、言葉すら忘れ果てて道端で蹲っているところを、優しい人間の夫婦に拾われて育ててもらった。疑うことなく人間として生活し、満ち足りていた。
 しかし、十六歳の秋に養親が事故で死に、孤児となってしまった。そのアキラを迎えにきたのが江森だった。
〈森〉での記憶が戻らないまま、叔父だという統皇に会った。穏やかな人格者で、アキラは人間界に落ちる直前まで、このひとに育てられたらしい。本当の両親は、彼が生まれてすぐに『死』んだということだった。
 統皇が言葉を濁してしまったので、あまり多くは教えてもらえなかったが、アキラも深くは訊かなかった。道端で蹲っていた日から、自分の人生は始まったのだと納得しただけだ。
 子供のいない優しい夫婦は、暖かい愛情で、心で、仕草で、アキラを育ててくれた。
 実際、記憶が戻らなくとも、実の両親でなくとも幸せだった。
 その思い出だけあれば、充分なのだ。
 しかし、だからこそ執着し、〈森〉を飛び出して、人間界に舞い戻ってしまった。
「〈森〉の妖魔には、子供を作る義務はないわ」
 蜜子は耳に心地よく響く声で言った。
「私たち妖魔は、輪廻の終着点ですもの。全ての苦痛や責務から解放されているわ。食事の必要がないから餌探しに追われることもない、子供を作ることもそう。強い遺伝子を残すための相手探しもいらない……」
 アキラは煙草をもみ消した。どこかほっとしているような表情で身を乗り出す。
「だったら、どうやって?」
「“おしら様”」
 いつもの微笑を消して、蜜子は敬虔な巫女の表情になる。
「あなたが心を持った動物を迎えに行って門を開けると、〈森〉の外れにある大きな樹に魂が宿る。私は予言をした時点で、次にどの種族に妖魔が生まれるかを報せておくの。すると、若くて面倒見のいい男女が選ばれる」
「夫婦でなくてもいいのか?」
「その概念自体、〈森〉には不要なのよ」
 アキラは首を傾げ、口篭もる。
「俺には、両親がいたと聞いているが」
「別に禁止されているわけではないから、結婚してもいいのよ。蝙蝠の一族は比較的そういう形を望む傾向が強いわね」
 蜜子は軽く肩を竦めた。
「人間と同じに、夫婦関係によって子供が出来る場合がある。でも、〈森〉のほとんどが“おしら様”に授けてもらうわ。出産の苦痛はないし、一族の子供として迎えるほうが好ましいという風潮があるから」
 黙ってしまったアキラを流し見て、つまらなそうにコーヒーのお代わりを催促した。
「行ってみたことはある? とても大きな樹よ」
「いや、見かけたことはあるが……」
 アキラは豆を挽いて、ゆっくりと落としながら〈森〉の村から見える樹を思い出していた。飛び抜けて高い梢の先に、雲のように枝を伸ばしている樹だった。
「やたらでかい樹があるとは思っていたんだ。あれが、“おしら様” か」
「ええ。根元に佇んでみると、その大きさには圧倒されるわよ。幹周りは大人が手を繋いでも十人分はあるかしら。でも、見方を変えれば細いぐらいだわね」
「と、言うと?」
「“おしら様”そのものは、樹の内部にあるからよ」
 蜜子は出されたコーヒーの芳香に目を細める。
「成人に達していれば、あの中に入ることができるわ。中は真っ暗で……そうね、この喫茶店の倍はあるかしら。中央に泉が湧いていて、ほのかに明るく光っているの。とても幻想的な空間よ」
「そこに行って何をするんだ? 祈りでも捧げるのか」
「『祈り』は私達の基本でしょう。でも、それだけでは肉体は形作られない」
「粘土でもこねて、出来上がり……ってか?」
「ばかね。妖魔は人形じゃないわ」
 からかうように鼻で笑う。
「女は自分の身体から肉をもぎ取るの。大抵は指の腹をナイフで切り取るようね。爪の先ほどだけど……。男はそれに自分の血をしたたらせる」
「……」
「血と肉を分け与えるのよ。肉体は肉体から、血は血からしか生まれない。そうして子供の身体となる基を泉に沈めておくと、培養されてきちんとした肉体になるというわけ。あなたが看取った動物は、こうして妖魔となる」
「へえ……」
 複雑な表情でアキラは流しの角に腰掛けた。こうすると、丁度蜜子と向かい合う形になる。 真剣に話をしたいときの位置だった。
「なんか、合理的なんだか遠回りしてんだか解んねえけど、つまり代理母みたいなものか?」
「そう言ってもいいわね。実際に“母堂の木”と呼ぶひともいるし」
「そりゃまた直球勝負な名前だな」
 呟いて、煙草に火を点けた。
 一息だけ煙を吐き出すと、考え込むようにして白く立ちのぼる紫煙を見詰める。
「前から気になっていたんだが、俺が看取った動物はまだひとりも妖魔として生まれてきていないんだ」
「そのようね」
 蜜子は優雅にカップを置くと、細い指をからませて顎を乗せる。少女のような仕草は、当然のことながら似合ってはいない。
「あなたが統皇様からこの仕事を引き継いで、もう二年……三年が経つのかしら。その間〈森〉には子供が出来なかったわね。やっと生まれたと思ったら蛭子では泣くに泣けないわ」
「言っておくが、兎を看取ったのは俺じゃねえよ」
 アキラはほとんど吸わなかった煙草を灰皿に押しつぶして、ため息を吐いた。
「お前には言わなかったが、一ヶ月ぐらい前に急に統皇が『代わってくれ』と言い出した事があった。その時の動物が、多分……」
「今回の蛭子?」
 蜜子は囁き声で言ってから、表情を曇らせる。
「まさか、統皇様がしくじった……?」
 アキラは頷くべきか、首を振ろうかと迷った末に、もう一度ため息を吐いただけで立ち上がった。
「いずれにせよ、俺が妖魔を生ませられないことには変わりない。ちょっと〈森〉に行ってくる」
「そうね。あなたは考え込むよりも行動する方が合っているわ」
「それって嫌味か?」
 横目で睨むと、
「ただの感想よ」
 普段はあまり見せない、優しそうな微笑みを見せた。
「とにかく、解決したら報せて頂戴。正式な歴史書に刻む必要があるのか、四鬼獣様達に相談する都合があるから」
「ああ、そういえばお前は鳥の一族だっけ。予言をする巫女だったり、伝承を語り継ぐ一族だったり。……お忙しいことで」
「あなたみたいに暇ではないことは確かね」
 あっさりと皮肉を返して、蜜子も立ち上がった。
「とにかく気をつけていてね。異界からの訪問者に」
「はあ?」
「言った筈よ? 伝言鳥で───」
 アキラは、最後の一言を聞く前に踏み潰してしまったのを思い出して、明後日の方向を向いた。後頭部の辺りに蜜子の冷たい怒りが突き刺さってくる。
「あなたって子は」
 言い掛けた言葉が終わらないうちに、突然天井から轟音が鳴り響いた。


第三章(3)に続く。



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縦書き(10)に続く。


ぐあああああぁぁぁぁ……!
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